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第三百七十六話 Double Life-3 秘密。 [謎解譚]

 「どうしても会ってお聞きしたいことがあるんです。」

彼女から電話が入るのは初めてのことだった。しかも何故だか焦ったような様子

で会いたいと言う。何事かと思いながらも、会う約束をして電話を切った。

 彼女と会うのは二カ月ぶりくらいか。電話の様子とは違って落ち着いた様子で

現れた彼女は、しかし少しやつれたような表情だった。

「どうしたの?新しい勤め先は順調?」

「ええ、お陰さまで。今いろいろと修行させてもらってますの。」

そんなとりとめない会話はすぐに思い話題に変わった。

「澄子さんと出会ってから、私も転職の準備やら何やらでバタバタしていたんで

す。だから付き合っている彼とのデートもしばらくお預けになっていたんです。そ

れがこないだ久々にデート出来たんですけど、その時に、澄子さんの話をしたん

です。澄子さんの知り合いと私がとても似てるっていう話。そしたら急に彼の顔色

が変わって・・・。」

 その彼は私のことを根掘り葉掘り聞いた揚句、もう二度と会うなと迫ったという。

その上、それから連絡が取れなくなったそうだ。いったい何事が起きているのか

わからないと彼女は泣き始めた。

「それで、あなたのその・・・彼氏の名前は何というの?」

「・・・根室・・・大介。」

その名前を聞いた私はハッとした。根室大介・・・聞き覚えがある名前だ。誰だっ

たか・・・そうだ、あの背が高くて色白、髪を金髪にしていた男。あれは洵子の同

僚だとか言っていたっけ。あの頃、洵子は別の男性と付き合っていたのに、しつ

こくされて困っている同僚がいるってこぼしてたっけ。そのストーカーまがいの男

性が確かそんな名前だった。

「澄子さん、私怖いの。毎日あの男が会社の玄関で待ち伏せして、私を誘ってく

るのよ。でも同じ会社の同僚だし、別に悪戯されたわけでもないし、邪嫌にもで

きないし・・・どうしたらいい?」

洵子からそう問われて私も困った。私にはそんな経験はないから、撃退法を知

っているわけでもないし。とにかく、自分の意思をしっかりと持って、はっきりと

断るしかないわね、と答えたのを覚えている。付き合っている彼氏に相談した

らと言うと、付き合っている彼は嫉妬深いので、それは言えないと言った。

 それから間もなくだった。洵子が姿を消したのは。仲良しだった私はショック

を受けた。彼女の部屋はそのままだったし、会社も無断欠勤で、失踪したのだ。

どこかに旅行にでも出かけるのなら、私に一言くらいあるはずだし、第一無断欠

勤するわけがない。私は警察に彼女がしつこくされて困っているという男・根室

の話もしたが、その男がかかわっているという証拠もなく、結局失踪事件として

謎のまま事件は幕を閉じた。洵子の部屋はご両親が来て片づけられ、引き上げ

ていった。

 あれからもう十年も過ぎた。すっかり忘れていた男の名前を、こんなところで聞

くなんて。しかし、こんな話を今の彼女にするべきなのかどうか。しかし、もし根室

が洵子の失踪事件にかかわっているとしたら・・・もしかしたら目の前の彼女だっ

て危険な境遇にいるのではないだろうか?いや、私の話を聞いて青ざめたという

その男には、必ず洵子と関連した秘密があるはずだ。

 「その、彼・・・根室って人は、身長が高くって色白で・・・」

男の特徴を告げると、彼女・・・亜希子はどうして知っているのかと驚いた。やはり

同じ男だ。私は根室について知っていること、そして洵子の失踪事件のことを洗い

ざらい彼女に話した。亜希子は震えながら私の話を聞き、来た時よりも青ざめて帰

っていった。私は、十分に気をつけるようにと伝えた。何故なら、二度と洵子の二

の舞はさせたくなかったから。

 数日後、テレビのニュースで里中亜希子という女性が行方不明になっていると

いう事件を知って私はわなないた。悪夢がまた起きている。

                                 続く

 


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