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第三百七十五話 Double Life-2 対話。 [謎解譚]

「私に何か用事ですか?」
店を出たところで突然呼び止められた私は、驚いて入口のすぐ横から飛び出し
て来た女を見た。彼女だった。さっき店内で私が凝視してしまったあの女だ。
「もしかして興信所?」
俄かに不安げな表情になった彼女はそう尋ねてきた。
「興信所?い、いいえ。違います。」
「ああ、なぁんだ。よかった。先ほどあなたが私をじぃーっと見てらっしゃるので、
何か万引き検査院かなぁと思ったんだけど、いまあなたを見てると探偵か何か
かなぁって思って・・・」
「ああ、それは失礼しました。そんなに見てましたか、私?」
「ええ、それはもう、気持ち悪いくらい。男性だったら肘鉄ですよ。」
「ごめんなさい。実はね、あなたが昔の知り合いにあまりにも似ていたもので
・・・。」
「ええ?そうなんですか・・・。それは不思議ですね。実は私も、同じようなことを
感じて・・・前にどこかでお目にかかっているのかしら?」
「・・・いいえ、たぶん。会ったことないと思いますよ。」
そう言いながらも私は、またしても奇妙な感覚に捉われていた。以前に会ったど
ころか、一緒に暮らしていた人と同一人物でないのが不思議なくらいだった。
 それから私たちは、近くのカフェに入ってしばらく世間話をしていた。初めてで
あった見知らぬ同士なのに、お互いになんだか近しい感じを持ったからだ。彼女
はある事務機メーカーの事務をやっているのだが、キャリアを持ちたくて本を読
んで勉強し、マーケティング会社に転職が決まったところだったのだ。だからその
会社が身辺調査をしているのかと思ったらしい。いまどきそんな健気な努力家が
いるものかといささか驚いたが、そういえばそんな地道な性格もどこか似ている
なぁと思った。少し年上の、しかも彼女の転職先とは同じではないが遠からずな
仕事をしている者としては、何だか応援したくなっていろいろと話し込んだのだ。
 私は堅めの会社の企画室で働いている。通信機器を扱う会社で、その販売方
法や販売先へのサービスなどを考えるような仕事だ。
 私たちは一時間ほど談笑した後、連絡先の交換をしてお互いに帰途についた。
それからしばらく、私は彼女のことをすっかり忘れていた。何しろこれほどの経済
低迷期で、しかも市場が動かないこの時期にはいろいろと仕込んでおかなけれ
ば、先行きがますます悪くなってしまうのだ。お得意先や下請け会社など、あちこ
ちに出かけていき、仕事の種を探し回ったり、業界紙の隅から隅まで眼を通して
今できることを探したり、暗闇をまさぐるような毎日だった。ちょうどその忙しさが
一段落したかなぁと思い始めた頃、携帯電話が鳴った。
 「澄子さん、会って話がしたいんです。」
あの彼女だった。
                                      続く
 
 

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