第百六十一話 コブトリ姐さん。 [可笑譚]
ある日目覚めると、なんとなく違和感。何が違和感かというと、足の先あたり。何
だろう?と思って、左足のその辺りを調べて見ると、ウェ?!何これ?!足の甲にぷ
っくりとしたコブみたいのが出来ている。恐る恐る触って見ると、ぷ乳ぷにゅして柔
らかく、こっちを押すと、向こうが膨らみ、向こうを押すとこっちが膨らむ、みたい
なことになってる。何だコリャぁ?痛くも痒くもないのだけれども、こんなものが足
にあるということ自体が気持ち悪い。
も、もしかして・・・ニ・ン・シ・ン?いやいや、そんなはずは・・・。最近はそ
んな行為をしていないもの。それに、これ、足でしょ?足が妊娠する?ほら、子宮外
妊娠っていうのもあるし。あほか、いくら至急外といえ、こんな子宮外があるかいっ!
一人でボケたり突っ込んだりしてみたが、何も解決しないのだった。
病院に行ってみた。以前、腱鞘炎を看てもらった整形外科だ。老医師が患部を見な
がら言った。
「いつからじゃ?ほぅ、今朝気がついたの?何々、二ヶ月前にこの辺を打ち身した?
二ヶ月前ではあまり関係なさそうじゃな。しかし・・・ほれ、こっちを押すとあっち
が、あっちを押すとこっちが膨らむじゃろ?なんじゃろな、これは。ちょっとレント
ゲンを・・・」
医師の言うままレントゲンを撮った。しばらくすると写真が上がってきて、それを
見ながら老医師が続ける。
「ほれ、骨には異常がないの。う~ん。なんじゃろな、これは。ガングリオンかも
しれんがな。痛みもないんじゃな?まぁ、あまり心配いらんから、しばらく様子を見
よう。ガングリオンだったら、そのうち消えるかも知れんて。ん?何か手当てとか?
いやいや、別に何もせんでええ。心配いらんて。もし、しばらくして消えなかったら、
この液を抜くというのもあるからな。」
おじいちゃん、まぁ、なんともはっきりしない見立じゃて。しかし、医師がそうい
うのだからきっとガングリオンなんだろう。それに、様子を見るしかないか。家に帰
ってインターネットで「足の甲のコブ」で調べてみたら、いろいろ出てきた。ガング
リオンというのもあるが、下肢静脈瘤、滑液包炎、粉瘤(アテローム)とか。なんじ
ゃぁこれは?これでは判断出来ないではないか。いったいどれなの、私のコブは。
二日経った。コブは相変わらずあるが、少し小さくなったような気もする。五日経
った。相変わらずコブはある。ぷにゅぷにゅして触り心地は気持ちいい。名前をつけ
た。グリオンちゃん。なんかカッコ可愛い。十日経った。変わりなくグリオンちゃん
はある。
靴を履くときに困るんだ。痛くはないが、ストラップつきの靴とか、なんとなく履
けない。甲のきついブーツとかは無理。やっぱり、これ、何とかしたいな。コブ、と
りたいな。
ふと昔話を連想した。”コブトリ爺さん”。そうか、私はコブトリ姐さん・・・コブ
トリ・・・小太り?誰が小太りやねん!とまた一人ボケ突っ込みをしながら、エイッ!
とコブを押して見た。もう一度、エイッ!すると、どうした弾みか、コブがふっとな
くなった!
えっ?グリオンちゃん、どこ行ったの?何?何が起きたの?
足の甲は、以前のように平らになってる。コブはない。どうしたことか。十日経っ
ても変化がなかったくせに、こんなことで消えうせるのか?なんと根性のないコブめ。
明日、あのおじいちゃん医師に言いに行こう。押したら消えたと。
なんとなくすっきりした私は、顔でも洗おうと洗面所に行った。電気をつけて、洗
面の鏡を見た。ん?違和感・・・。あ”~っ!何これぇ~!右額のところがぷっくり膨
らんでいるではないか。あのグリオンちゃん、足の甲を押したら、こんなところに移動
したんだ!わ、私は風船かぁっ!額のコブがぷるぷるっとうれしそうにふるえた。
了
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