SSブログ

第百六十話 恋が成立しないワケ。 [恋愛譚]

 ワインバルHOLEは、阿藤紀美と和田果歩の二人が経営する人気店だ。妙齢の女

性が経営する店というのは、女性が入りやすく、女性が適度に多い店には必ず男性

客もやってくる。この辺がHOLEに人が集まる理由だろう。紀美と果歩は仕事場ば

かりか住まいも共にしているのだが、二人には悩みがあった。同居しているが故に、男が寄

り付かないのである。

 そもそも、二人とも結婚経歴があり、それぞれの理由で挫折してきたわけだし、お店を始

めてまだ五年目の今は、男どころではないという気持ちも強い。だが、何かの折にはやはり

優しい男性が近くにいて欲しいと思うのは、自然の摂理だ。

 常連客の中には、粉をかけてくる男性がいない訳ではない。

「ねえ、今度お休みの時にどこか行かない?」

「お店閉めるまで待ってるから、飲みに行こうよ。」

「デートしよう、デート!俺となら楽しいぜ!」

男性に限らず、好意を寄せてくれるのはとてもうれしい。だが、それとこれとは違う。

それに、お客さんと親しくなるのは、よほどのことがない限り難しいと思う。”商品に

手をつけるナ”じゃないけれども、特定の顧客と関係を結ぶことによって、お店の雰囲

気に響いてしまうことが往々にしてあるからだ。

 カウンターの中にいる私たちに粉をかけるのをあきらめた男性客の矛先は、今度は

女性客に向けられたりする。

「あんた、キレイやねぇ。よく言われるんじゃない?今日は、おじさんが相手してあ

げるよ。」

誰も相手にして欲しいなんて思ってないって。しかし、この手の親父は外聞も何もな

いのである。

「俺ももう、いい年だし、会社の若いやつらの世話をするのも飽きたわ。あんたみた

いなお姉さんだったらいくらでもお世話させてもらうけどね、がっはっは。」

お酒の場なので、こういうのもありといえばありなのだけれども、女性客が嫌がって

いたりすると、軽く注意はする。だけど、ありがたいことに女性客も慣れたもので、

軽くあしらってくれたりする。

「まぁ、おっちゃんも寂しいんですネ。なんなら高級ブランドでも買ってもらっても

いいですよ。」

「おお!何がいい?グリコか?それとも明治のがいいか?」

酔っ払いの会話なんて、おおよそこんなものだから、 ここで恋愛など始まろうはずも

なく、私たち店の人間は、こういうおじさんには体よくお引取り願うのである。

 ある時、問題が起こった。常連の女性客が、こんな男性の一人と関係を持ったので

ある。それ自体はどうぞご自由になのであるが、実は、この女性客が相手にしていた

のはこの男性一人ではなかったというところに問題があった。しかも、この女性は金

銭感覚もおかしいという。つまり、お小遣い目的で関係を持ったりするらしいのだ。

こういう人があからさまに出てくると、他のお客さんに影響が及ぶ。つまり、お店の

雰囲気が妙な具合になってしまうのだ。風俗店じゃあるまいし、こういう問題のある

客には、他の多くのお客さまに迷惑が及ぶ前に、いわゆる”出入り禁止”を発令させて

もらっている。

 こんな具合だから、私たちは、自分自身のことにかまけていられない。彼氏を作る

どころではないのである。

FxCam_1307763594514.jpg            了

 ※文中の出来事はすべてフィクションです。実在する人物や団体とは一切関係ありません。 


読んだよ!オモロー(^o^)(11)  感想(0)  トラックバック(0) 
共通テーマ:

読んだよ!オモロー(^o^) 11

感想 0

感想を書く

お名前:
URL:
感想:
画像認証:
下の画像に表示されている文字を入力してください。

Facebook コメント

トラックバック 0

トラックバックの受付は締め切りました

 

この広告は前回の更新から一定期間経過したブログに表示されています。更新すると自動で解除されます。