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第百五十八話 ワンストーカー。 [恋愛譚]

  「あら?またあの人だわ。なんだか気持ち悪ーい・・・」

佐和子が愛犬の散歩をしていると、あの男が必ず現れるのだ。いつも黒いタートルネ

ックに黒いズボン。まるでどこかに忍び込むのではないかというような忍者のような

黒ずくめの男。佐和子の頭の中に”ストーカー”という言葉が浮かぶ。この二週間とい

うもの毎日だ。いっそ、近づいてきて何か悪さでもしてくれたら、警察に訴える事も

できるのに。今のところ、何も被害はないので、ただただ気持ちが悪いだけだ。

 でも私ったら、まだまだいけるのかもね。最近は色っぽい話もとんとなくなってし

まったし、あの人、私のことがそんなに気に入ったのかしら?まるで芸能人にでもな

ったような気分がしてしまうのは否めない。公園の入り口のところに、たまたまパト

ロール中のおまわりさんがいたので、相談してみることにした。

 「あのぅ、おまわりさん、すみません。」

「どうか・・・しましたか?」

「実は、この二週間ほどのことなんですが、私がお散歩していると、男の人が現れて

ついて来るんです。」

「本当ですか?思い過ごしではありませんか?」

「いえ、本当なんです。ほら、今もあそこに。あの黒ずくめの人。」

「ははーん、知っている人ですか?」

「いいえ、全然存じませんの。」

「じゃぁ、なんでしょうね。いつもあの人なんですか?間違いないですか?」

「はい、間違いありません。」

「で、何をされたんです?」

「いえ、まだ、何も。」

「何もされてない?じゃぁ、今のところ、罪にはならないですねぇ。知ってる人・・・

たとえば元恋人がつきまとって困るとか言うのでしたら、十分にストーカーの疑いが

あるけれど、知らない人ではねぇ。たまたまあそこにいるだけなんじゃないですか?」

「そうねぇ、確かに。何もされてませんからねえ。でも気持ち悪い。」

「とにかく、何かあったらすぐに通報してください。」

やっぱり、今のままじゃ警察のお世話にはなれないようだ。じゃぁ、私の方から仕掛

けて見るか?そう考えて私は男に近づいた。

 「あのぅ・・・いつもここで何されてるんですか?」

「え?!何って・・・ご覧の通り散歩ですよ。」

「でも、いつも私の後をついてきてませんか?」

「あ・・・ははは、これは困った。気がついてましたか?」

「やっぱり。何なんですか?私がそんなに魅力的ですか?!」

つい、強い口調になってしまう。

「え?あ!はい、まぁ、その、あなたも魅力的ですよ。」

「やっぱり。とうとう正体を現しましたね。この変態!」

「へ、ヘンタイ?なんですか、それは。違うんです。僕はただ・・・」

「ただ?ただ何よ。」

「あ、あなたの連れているそのワンちゃんなんですが・・・」

「え?ワン・・・ショコラが?どうかしたの?」

「あ、ショコラって言うんですね。昔僕が飼っていたのと瓜二つなんです。」

「あ、なーんだ・・・犬かぁ。」

私はすっかり気が抜けたと同時に、恥ずかしさで顔が真っ赤になりながら、その後の

会話はあまり覚えていないが、とにかくウチの久太郎と、色も柄の位置も、顔も、何

から何までそっくりな犬を飼っていたが、交通事故で亡くしたらしい。それで、つい

懐かしさのあまり遠くから眺めていたのだという。

「私、とんでもない事を言ってしまって。」

「いえいえ、それは僕がそれほど怪しかったのでしょうし。それより、もし、お許し

いただけるのでしたら、時々こうしてワン・・・ショコラちゃんを拝見させていただ

けないでしょうか?」

よく見れば、男は結構イケメンで歳若く、遠目の印象とは違い、真面目そうで、今ど

きの好青年だ。私は男の申し出を承諾した。それから数週間後。公園でのお散歩デー

トは、私たちの日課になった。日暮れの同じ決まった時間にショコラを連れて公園に

行くとあの男、達也が待っている。そして私たちはそろそろとお散歩をし、時にはそ

のままドッグカフェでお茶をしたりし

た。こうなるとまるで恋人同士のよう。ショコラそっちのけで、恋愛話や映画の話で

盛り上がったりするようになった。

 一ヵ月後には、ショコラ抜きで食事に行く・・・つまり正式なデートをするように

までなった。お互いに電話番号を交わし、メールのやり取りなんかもするようになっ

た。達也はマメな男で、毎朝毎晩メールを送ってくる。そして夜になると電話をして

くる。あの、出会う前の出来事も、こうした達也のマメさ、情熱的な性格がさせてい

たのだと、今となってはわかる。

 出会いのとき、達也はワンちゃんが目的だと言った。でも、今こうしてみると、あ

れは本当だったのだろうかと思う。本当はやはり私が目的で、ワンちゃんをダシにし

ただけなのでは?そう思い始めた頃、些細な事で二人は大喧嘩をしてしまった。売り

言葉に買い言葉、私はもう二度と顔も見たくないと、彼を突き放した。そして、本当

に彼とはもう付き合いたくないと思った。

 それからである。達也は、毎日電話をかけてくる。私は無視し続けるのだが、する

と今度は私が愛犬の散歩に出るのを見計らって、現れ、後ろをついて来るのだ。まる

でストーカーのように。

IMG_4300.jpg          了


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