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第百五十二話 破局する愛の巣。 [怪奇譚]

 我が家は笑いが絶えない家庭だ。婚礼なんかで「ぜひ、笑いの絶えない家庭を築い

てください」っていう、あれの見本みたいだなと、夫婦で笑い合う。残念なことに子

供はまだいないのだが、そのかわりと言ってはなんだが、犬1匹とネコ2匹が私たち

夫婦の同居者だ。

 この幸せな家庭はひとえに妻の明るい性格のおかげなのだが、その根底には私の収

入があることは言わずもがなである。私は個人経営者だ。何を経営しているかと言え

ば、住まいの各種害虫駆除だ。害虫駆除と言えば、ゴキブリやダニ、ナンキン虫の類

いだが、時にはネズミの駆除なども依頼される。そして最も深刻なのがシロアリだ。

ゴキブリやダニはとにかく根絶すればいいのだが、シロアリは早期発見と早期駆除が

重要だ。何しろ、家が壊されてしまうわけだから。

 しかし、私のところに依頼が来た時点では、既に相当家が傷んでしまっている。そ

れでも早期に駆除すれば何とか修理して住み続けることは可能になるのだ。駆除の方

法はと言えば、シロアリの通り道である蟻道や蟻土を見つけ、そこに薬剤を撒く。さ

らに空洞になっている木の柱や木材の割れ目を見つけ、そこをあけてみると、見事な

巣が見つかったりするのだ。こうしてすべての巣や通り道を発見して薬剤を散布する

ことによって、なんとかうまく収まるのが常なのだ。

 最近はネズミの被害もずいぶん減ってきたのだが、時折農村地区などから依頼が来

るのが、野ネズミ退治だ。普段はあまりそのようなこともないのだが、時折野ネズミ

が異常暗色し、イモなどの穀物が被害に合うことがある。そうすると私の出番だ。穀

物畑の周辺を探すと、岩の下や木材の裏などの土に穴がいくつも空いていて、そこか

ら巣につながっている。この巣を見つけて、可哀想だと思いながらも駆除剤を撒く。

ネズミも一生懸命生きているのだろうが、人間が汗水垂らして作った物を食べられ

てはたまったモノではない。

 かく言う私も、様々な害虫がいてくれるからこそ、これを退治して生計をたてる事

が出来ているのだ。

 今日も無事仕事をこなし、明るい我が家で疲れを癒す。まず風呂ですっきりした後、

妻と夕飯を摂り、子供たち(我が家では犬と猫たちのことをこう呼ぶ)にご飯を食べ

させる。テレビの前でひとときの団らんを楽しんだら、寝室に向かう。夫婦がベッド

に入ると、それまで銘々好きなところで眠っていた子供たちも三々五々集まってくる。

そしてみんなベッドの上に乗ってきて眠るのだ。

 このほのぼのとした自分たちのベッドを眺めながら「まるで巣のようだな。」と思

う。私もようやく古家ではあるが一戸建てを手に入れ、その一部屋にみんなが集まっ

て休んでいる。あたたかい家庭。幸せなすみか。

 ある夜、私たちが安心しきって深い眠りについた頃、何者か〜人間を越えた存在に

よって静かに家の屋根が引きはがされ、露天になった天井から白い駆除剤が散布され

はじめた。

IMG_2941.jpg


                          了

 


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