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第百五十三話 愛しい人。 [恋愛譚]

 僕と松子は、3年前にあるお店で出会い、半年後に入籍した。その店とは、有体に

言えば洋風居酒屋なのだが、僕が初めて飲みに入ったときに、彼女もそこにいた。ワ

インバールHOLEは、カウンター席中心のこじんまりした店なので、割合客同士で会

話も弾み、知り合いになったりするようだ。松子は女友達と来ていたのだが、僕はた

またま隣席に座った。彼女は黒っぽい衣装のせいだろうか、ちょっぴり小悪魔的な雰

囲気を醸し出していて、僕はすっかり魅了されてしまった。

 その店で2回目に出会ったときにはすっかり友人のようになっていて、そこから先

は ごく自然に接近してお付き合いをするようになったのだ。

 松子は、その外見の雰囲気が暗示するように、いささかわがままなところがあり、

好き嫌いも非常にはっきりしていた。そのくせ、すぐに前言を撤回したりする。たと

えば、HOLEで出しているエスカベッシュ、いわゆる野菜などの酢漬けだが、これに

はセロリが入っていて、「私、セロリは嫌いだからいらな~い」と言っておきながら、

口に入れて見ると、美味しい美味しいと今では癖になってしまっている。つまり、食

べず嫌いだったわけだ。食べ物のことで言えば他にも、僕がステーキを注文すると、

「私、今日はお腹いっぱーいだから、いらなーい。」と言っておきながら、バクバク

食べるのだ。これをわがままと言わずしてなんと言う?だが、僕はそんな彼女が可愛

いと思うのだ。だて、人の気持ちは変わるものだから。

 籍を入れる前から一緒に住みだしたのだが、彼女の寝起きの悪いことったら、ない。

朝はもちろん、僕のほうが先に起きる。先に起きるものだから、コーヒーを沸かし、

トーストを焼くくらいのことをする。待ちかねて先に食べていると、そろそろ起きだ

して、何~先に食べてちゃだめ!と甘えてくる。僕が会社に出かける頃にもまだ、メ

イクが済んでおらず、松子は毎日会社に遅刻してばかりで大丈夫かなと心配する。心

配だと言えば、タクシーに乗ってるから間に合うの!ほっといてよ。と怒り出す始末。

 夜は夜で、食後のリビングで、僕たちはよくテレビを見ながら転寝をしてしまう。

ソファの上での転寝は存外気持ちがいいものなのだ。小一時間も眠ると僕は目を覚ま

すのだが、松子はそうではない。下手に起こそうとすると、手足を振り払って怒り出

す。

「今、気持ちいいんだから、ほっといて!」結局朝までそのまま眠り続けて、朝になる

と「どうして起こしてくれなかったのよ!風邪でも引いたらどうしてくれるの?!」と

また怒る。しかしこんな松子も小動物みたいで愛らしいなと僕は思うのだ。

 夕飯の仕度は、松子がすることが多いが、割と僕もする。松子は気分やなのだ。生

理と関係するのかもしれないが、「今日は何もする気になれないわ。」と言って、会

社から帰るなりソファの上で横になってしまう。仕方なく僕はありあわせのモノで、

サラダや味噌汁、鶏肉のソテーなんかを作って並べると、「あなたもお料理が上手に

なったわね。」 と褒めてくれる。松子に褒められると、僕はすっかりその気になって

しまって、また作るぞ、今度はもっと工夫して見ようなどと考える。松子は褒め上手

なのだ。

 休日の僕らは、家でゴロゴロしている事が多い。どこかに行こうにも、なかなか決

まらないからだ。たとえば僕が提案する。「今日はどこかへドライブに行こうか?」

すると、「うん、行こう行こう。」と答えるのだが、次には「でもどこかってどこへ?」

と聞いてくる。僕は、近場の海などを提案すると、海は日に焼けるから嫌だと言う。

じゃぁ、どこに?と問うと、あなたがちゃんと提案してよと怒る。だから海を提案し

ただろう?と返すと、それは嫌だと返ってくる。じゃ、山は?こう返すと、山に登る

のはしんどいから嫌。じゃ、適当に走るだけ。・・・そんなのツマンナイじゃん!

・・・こうして結局家でゴロゴロする羽目になる。でも、黙って僕についてくるよう

な女の子に比べると、ちゃんと自分の意見を持って会話をしてくる彼女はなかなか頭

がいいんだな、と思う。素敵だ。

 あるとき、彼女が犬を飼いたいと言い出した。僕も動物は好きだが、今の状態・・・

二人とも働いていて留守勝ちだし、家も狭いという環境の中では、犬がかわいそうだ

と反対すると、「あなたはいつも、上から目線でそうやって頭ごなしに反対するのね。」

と反撃する二言三言やり取りした後には急に激怒して、「もう出てく!」と言って旅

行バッグに服を詰め込んで本当に出て行ってしまった。それからと言うもの、僕は寂

しくて、翌日の仕事も手につかず、携帯電話を何度かけても松子は出ないし、すっか

り僕は落ち込んでしまった。夕方僕は泣きながらもう一度松子の携帯を鳴らした。

「お願いだから・・・返ってきて!犬も飼っていいから・・・」

すると驚いた事に、松子の言葉は、

「あはは、もうお家に帰ってるわよ。ほら、可愛いワンちゃんも一緒に!」

こうして、この日から僕の家には家族が一匹増えた。我が家が賑やかに楽しくなった、

これも松子のお陰だと、今では感謝している。本当に松子は愛しい女だ。

 わがままで、自分勝手で、プライドが高く、気が強く、怠惰で、だらしなく、好き

嫌いが明確で、はっきりとキツメの言葉で意見を言う・・・これって、よく考えたら

アメリカ女性っぽくないですか?僕は洋画に出てくる女性を見ててそう思う。松子は

外国人なんだと。並べ立てた言葉は、まるで悪い事のように思う人もいるかもしれな

いけど、僕に言わせれば、全部松子への褒め言葉だ。松子、マツコ、まつこ・・・本

当に、愛しい人。

FxCam_1304743695534.jpg              了


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