SSブログ

第百十九話 難似摸仙人。 [可笑譚]

 私は仙人じゃ。しばらくの間、俗世の人ゴミに揉まれて生きておったが、遡ること

三年と三ヶ月前にこの山に入り、険しい岩肌を登りつめてこの場所に至った。ここ

には食い物はない。水もない。仙人は霞を食うというが、あれは本当じゃった。仙

人になることを決心して山に入ったワシは、その次点で仙人になった。じゃから、も

はや食い物はいらん。霞がワシの糧なのじゃ。

200701上海 604.jpg

 さて、仙人になってワシが何をするのかじゃと?滝に打たれて修行をしたり、山

から谷へ、谷から頂へと走り回って、さらには雲に乗ってみたり、湖の水面を歩い

て渡ったり、そんな魔法のような行為をするとでも思っているのかね?何?不老不

死?仙人といえば、不老不死の命をてに入れて、さまざまな術を使いこなすのじゃ

ろうとな?

 そんなことが出来るのなら、ワシはこんなところにはおらん。死なんのなら、と

っとと福島原子力発電所にでも行って、その術とやらで解けてしまったものを回収

するなりなんなりやっとるじゃろうて。ワシだってこの国の為に何か出来ることが

あるのなら、さっさとやりおるで。

 まぁ、仙人といえば聞こえは良いかも知れんがの、本当のことをいうと、ただの

引きこもりじゃ。昔の仙人は違ってたとな?そんなことはない昔っから、大昔っか

ら、仙人というのは、今のワシと同じ、ただの引きこもりじゃ。まぁ、格好よく言

えば世捨て人じゃな。もう、何もかも嫌になってしまったのじゃ。町や村の事も、

おまんらみたいにいろいろと詮索好きな人間どもの事もな。ワシはひとり静かにこ

の世の最後の暮らしを味わっていたいから、こうして人里離れた山奥に引きこもっ

ておるのじゃ。

 髭も伸び放題、着物も着たきり、こんな風体をして山にこもっておるとな、その

姿を垣間見た里の人間は、最初は天狗か魔物かと思いよる。じゃが、ワシが人間で

あることがわかると、今度はただものではないと、勝手に想像しよるんじゃ。じゃ

からまるでワシらが魔術の使い手のように信じてしまうのじゃな。

 本当に、ただの引きこもりかって?本当に何もしないのかって?疑り深いお方じ

ゃ。ほれ、そこに、入り口の表札に書いておるじゃろ?なんて書いておるかの?

「難似摸仙人。」

そうじゃろ。その通りじゃ。ん?仙人と書いておるてか?じぇんぶいっぺんに、続け

てよんでみい!「難似摸仙人・・・なんにもせんにん。」そう書いておるじゃろが。

ワシは、何にもせんのじゃ。何もせん人間なのじゃ。わかったか。

 ワシみたいな「何にもせん人間」は、街なかにもたくさんおるぞ。街なかで、おま

んらのような人間と一緒にいたら、そのうち「こいつ!何もしやがらん!」とイジメ

にあってしまうのじゃ。じゃからワシは、こうして山奥に引きこもっておるというわ

けじゃ。わかったら、早々にお引取り願おうか。おっと、このことは他言するなよ。

ここまでイジメに来る物好きなやつがおるでの。頼んだぞよ。

                            了


読んだよ!オモロー(^o^)(5)  感想(4)  トラックバック(0) 
共通テーマ:

読んだよ!オモロー(^o^) 5

感想 4

galapagos

面白い視点だとおもいました。
なんだかとっても納得してしまった。
もしかしたら、この方は山の中でもう死んでいるのでは?と思うと、少し怖いけど…
by galapagos (2011-05-24 23:32) 

momokumi

コメントありがとうございます。
そうじゃろ?おもしろいじゃろ?
ふう、なぁるほど。ワシが死んでおるとな・
それは面白い視点じゃの。ミステリーにできそうじゃの。
じゃが、ワシはほれ、こうして生きておるぞ。
by momokumi (2011-05-25 02:29) 

(。・_・。)2k

面白い(^^)
by (。・_・。)2k (2011-05-26 06:34) 

momokumi

(。・_・。)2kさま、ありがとうございます。
なんか駄洒落っぽいのがおばかでしょ?
by momokumi (2011-05-27 03:12) 

感想を書く

お名前:
URL:
感想:
画像認証:
下の画像に表示されている文字を入力してください。

Facebook コメント

トラックバック 0

トラックバックの受付は締め切りました

 

この広告は前回の更新から一定期間経過したブログに表示されています。更新すると自動で解除されます。