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第九十三話 ダグアウトの嘆き。 [脳内譚]

 つい最近まで中堅社員として大手のお客さん相手にバリバリ働いていたのに、 そ

のお客さんはすべて若手の担当に代えられてしまった。先方の担当が若返ったからと

いうのがその理由なんだが、どうも納得できない。俺はというと、地場の零細企業回

りで担当者といえば爺さんばっかり。まるで主力内野手だったのにダグアウトに引っ

込められた選手みたいだ。エラーが増えたわけでもないのに、老兵になったからとい

う理由だけで。

 山下はまだ四十後半で働き盛りだ。だが、昨今の不況で倒産する企業も増え、経済

が低迷する中で、働き手の年齢はどんどん若年化していった。どの企業でも四十を過

ぎると、いや下手をすれば三十代半ばにしてリストラ対象とされてしまう。山下の会

社でも少し上の社員はどんどん早期退職という名のリストラにかけられて辞めていっ

た。オレはまだ辞めるわけにはいかない。マンションのローンも随分残っているし、

これから嫁を取って子供もつくらなきゃならないし。それなのにこの若さで控え選手

扱いだなんて。

「山下さんはベテランだからぁ、そう、気難しい担当者なんかの処理をお願いしたい

んだ。だから順調に推移しているイロハ製薬は若手に任せて、ちょっと売上げの下降

が続いている老齢薬局を何とかして欲しいんだ。」

俺より数年若い年下の上司にそういわれて、仕方なく受け入れた。ベテランベテラン

っていうけど、veteranって意味を知ってるか?“老兵”って意味だぜ。退役軍人って

意味もある。なんだか熟練者みたいにおだてられるけど、要はもう古いから時機にお

払い箱ってっことなんじゃないの?そもそも僻みやすい性格の山下は、ますます悪い

方に考える。そしてどんどん不安になっていく。不安のはけ口はどこにもないから、

酒を飲む。酒を飲んで気持ちを麻痺させてベッドに入るしかないのだ。

 今まではそれでよかった。朝目覚めると何もかもフレッシュな気分になっていて、

よし、今日もなんとか頑張ろう!そう思うのだが、会社に出て一日過ぎる頃には、ま

たあの考えが頭の中を占領して、仕事疲れが倍になって溜まっていく。そして酒を飲

んで寝る。ところが最近は朝の目覚めすらよろしくないのだ。目覚めた時点ですでに

疲労感が溜まっていて、疲労感がというよりは、疲弊感というか、諦念感っていうか。

要する意欲がわかないのだ。考えてもごらん、今まで「よし、今日の試合は必ず勝つ

ぞ!」と毎日張り切って試合に出ていたバリバリの内野手が、毎日ダグアウトに出勤

するのだ。ダグアウトはよほどのことがなければメインの試合に出られない。同じ控

え選手でも、若ければ、「これから頑張って主力選手になるんだ!」と未来を見るこ

とができるが、退役寸前の選手には未来なんてない。むしろ潔くダグアウトを去って、

次の居場所を見つけるのが筋だ。しかし俺が五十も六十もという年齢ならわかるが、

まだ四十代だぜ。なんで四十で退役寸前に追い込まれなきゃいけないのだ?出世ライ

ンに乗れなかったから?そうだよなぁ、同期の奴ら、うまく役員に取りいった樋口や

岡本は執行役員だもんな。同じように働いてきたのに、何故こう差がついたんだろう?

これからでもまだ挽回できるのか?俺がすばらしい戦略プランでも編み出して役員に

提案すれば?俺がでかい新規顧客をサヨナラホームランよろしく開拓できればいっぱ

つ逆転できる?いやいや、すべてはもう敷かれてしまったレールの上なんだ。いまさ

らどうしようもないと思う。

 その頃、役員会議室では執行役員たちが次期人事の下相談をしていた。

「なぁ、岡本役員、どう思う?私はさらに若手にシフトしていったほうがいいと思う

んだ。今の部長より下の世代を早く上に上げて、経営陣として迎えることこそ、これ

からの我が社が生き延びる道だと思う。」

「私もそう思う。私らの世代はまだ四十代といえども、いまや世間ではもはや中堅以

上、古株だ。このデジタル世代には着いていけないだろう。早々に退職してもらって、

三十代以下をシフトしていくことが重要だな。ウチに限らず、どの企業でもいまはそ

ういう方向に向かっているだろう?」

 昔、江戸時代には五十歳といえばもう老人だった。平成の今、再びあの時代に戻ろ

うとしているのだろうか。

                      了


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感想 3

(。・_・。)2k

読んでいて 雇われる側の辛さも解りました
会社は存続していく事が全てですからね
存続する為の手段しか選べないというのが事実だと思います
しかし、貢献してきた人達がいるから
今があるのも事実です
経営者としての雇う側の姿勢も求められる時代ですね。
by (。・_・。)2k (2011-04-29 01:26) 

green_blue_sky

2にゃんを飼っておられるんですね。
これからはよろしくお願い致します~
by green_blue_sky (2011-04-29 07:11) 

Coo

(。・_・。)2k さん、コメありがとうございます。フィクションといえども、ほぼ現実だと思います。
green_blue_skyさん、ありがとうございます。にゃんのサイトがこちらにあるんですよ。http://soratoharu.exblog.jp/
by Coo (2011-04-29 08:26) 

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