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第九十二話 遠きウエディングベル。 [恋愛譚]

 岡村はつい最近、三年付き合った彼女と別れた。周りのみんなにはもうすぐ結婚す

ると吹聴していたのだが、いざ正式にプロポーズするという段になって、気持ちが萎

えてしまったのだ。理由は…自分でもよくわからない。すっかりその気になっていた

彼女には散々泣かれてしまったが、こうなった以上、引き続き恋人を演ずることなど

できないだろう。自分は優柔不断だ。岡村はそう思う。結婚なんて、本当はどっちで

もよかった。彼女が結婚したいと度々ほのめかすので、女性に弱い岡村としては結婚

に対する考えも理想もないままずるずると彼女の意思に付き合ってきたのだ。ところ

がいよいよ田舎のご両親に会いに行かねばならない時期が押し迫ってはじめて、まだ

世帯なんて持ちたくないと思っている自分を発見したのだった。

 岡村はもう三十九歳。世間的にはとっくに結婚していておかしくない年齢だ。会社

の同僚や学生時代の友人などは、早々に結婚しているので、「今を逃すともう滅多に

結婚なんてできなくなるぞ。」と脅すので、そんなものかなぁと洗脳されてしまって

いたというのも確かにある。年貢の納め時!みたいな声も自分の中から聞こえてきた。

でもまだまだ覚悟ができていなかったのだ。五歳年下の彼女は決して悪い子じゃない。

むしろ、中流家庭で大事に育てられてきたお嬢様だからおっとりしていて、何かにつ

け岡村に甘えてくる。それが可愛いとも思えるのだが、岡村にはまだその甘えをしっ

かりと受け止めるだけのポテンシャルがないと思う。大事に育てられてきた、つまり

逆に言えばわがままで、経済観念に乏しく、自分本位に生きてきた三十四歳の女。そ

んな女性のためにこれから一生を使うのか?オレの給料を彼女に進呈するのか?岡村

はそんな風に考えるようになった。これがマリッジブルーだといえば、そうなのかも

しれない。「結婚なんて勢いだ。」昔酔った先輩に言われたことがある。思い切りよ

くジャンプしないと、今までの自由を謳歌していた生活から逃れることは出来ない。

いくら彼女を「愛してる」と言ったって、「愛してる」と言われたって、経済の問題

や人生は別ものなのじゃないだろうか。もし、もっと若い頃にこの話があったなら、

きっと弾みで結婚していたことだろう。なんせ、若い頃にはリビドーが強くて、ここ

だけの話だだが男にとって“毎日セックスが出来る”それだけで十分に結婚の理由にな

っただろう。ところが歳を取りすぎた。いや、今は性欲が薄れたなんて思っていない。

だが、二十代の頃のようにギラギラした性欲はもはやないし、仮にそんな気分になっ

たとしても、お金で処理できるだけの経済力がある。だから、そんな「弾みで」結婚

なんてできないのだ。「あたしのこと、本当は愛してなかったのね?」

「そんなことはない。愛は変わらないけれど、オレはまだまだやりたいことがあるんだ。」

いや、本当は愛してなかったのかもしれない。単に居心地のいい相手として彼女を捕

まえていた。オレはまだ本当の愛というものを知らないのだ、きっと。申し訳ないと

充分に認識しているのだが、一旦覚めてしまった気持ちは戻らない。だから、きっぱ

りと断った。みんなにはフラれたと言っているが。でも、また居心地のいい相手を探

さなきゃぁな…いやいや本当の恋愛を探さなきゃ、かな?

 近年、男も女も結婚しないで中年を過ぎていくケースが増えているという。たぶん、

オレと同じようなことなんだろうな、岡村はいつものバールでビールを飲みながら独

りごちた。


                         了


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感想 2

(。・_・。)2k

ご訪問ありがとうございます。
気づくのが遅れて申し訳ありません

僕のブログ 2000記事以上あります
つい最近下書きに保存してしまったので
表示されませんが
ただただ長く続けているだけのブログですが
お褒め頂いて嬉しいです(^^)
今後ともよろしくです。
by (。・_・。)2k (2011-04-27 04:44) 

Coo

(。・_・。)2kさん、コメありがとうございます。また感想とかもくださいましね。
by Coo (2011-04-29 08:27) 

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