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第六十七話 一日ワープ。 [空想譚]

 大変な一週間だった。東北で起きた大震災の影響で、国中に買いだめが流行し、様々

な品物が急に品不足という現象が起きたのだ。そのあおりで、平八が勤務する工場でも

急遽増産ということになり、この一週間は残業に津具残業で働き詰めだったのだ。しか

し、品不足もほんの数日のことで、すぐに流通網も回復して週末にはほぼ元通りの凄惨

体制に戻った。こうして疲れ果てた平八だったが、金曜日の定時にはようやく仕事から

解放されてすぐに家に帰って眠ればよいものを、疲れたときに限ってアルコールが恋し

くなるのが常だった。一週間ぶりの居酒屋だったから、仲間とともについはしゃぎすぎ

て、いつもよりも調子良く飲み続け、二軒目、三軒目とはしごして、部屋に帰り着いた

のは夜中の三時を過ぎていた。

 翌日土曜日は二日酔いの気持ち悪さにほとんど布団の中で過ごし、日曜日になってよ

うやく体調を取り戻した平八だったが、これもウダウダと過ごしてしまい、午後になっ

て駅前のパチンコ屋でほとんどを過ごすという体たらくな週末を過ごしてしまった。そ

れでも、一人暮らし身としては取り立てて休日の有意義な過ごし方があるわけでもなく、

おおよそ普段でもこんな自堕落な週末を過ごしているのだから、平八にしてみれば、十

分に週末の休暇を楽しんだというべきだろう。その夜はコンビニでおかずを買ってきて

家で適度な量のビールを飲んですっかりリラックスしたおかげで、そのままテレビの前

で眠ってしまったようだ。

 布団もかぶらずに眠ってしまったおかげで、平八は翌朝五時に目覚めた。「ううー寒

っ!ああ、こんなところで眠ってしまっていたんだな。」自分の自堕落さに呆れながら、

この二日間風呂にも入っていないことを思い出して、シャワーを浴びることにした。ま

だ春先で本当なら湯船にゆっくり浸かりたいところだが、朝からそんな時間はない。早

めにお湯を出しておき、浴室が十分に温まったところで、ささーっとシャワーを浴びて

さっぱりした。浴室を出てテレビをつけると、なんだかいつもやってる朝番組が見当た

らなかったのだが、いつも朝は通勤前にボーッと眺めているだけの番組なので、さほど気

にもせず、コーヒーメーカーをセットし、トーストを焼いた。時計をみると、もう八時

を過ぎている。急いでトーストをほおばり、勤務服に着替えて外に飛び出した。

 会社までは自転車で15分。工場近くの社宅なので、ぎりぎりまでを家で過ごせるの

が何よりなのだ。社宅と工場の間にちょっとした商店街があり、そのアーケードを抜け

ると間もなく工場が見えるのだが、今日のアーケードは怪しく緑の光を放っている。ま

だ常夜灯が消えてないのかな?と思いながらアーケードをくぐるときに、少しめまいの

ようなものを感じてハンドルがぐらつく。おっと、危ない。まだ酔いが残ってるのかな?

工場の門をくぐるといつもなら既に賑やかな時間帯なのに、なんだか休日のように閑散

としている。タイムカードを押して持ち場に入るが、既に稼働しているはずのマシンは

まだ眠ったままだし、誰もいない。工場長すら姿がないのだ。と、通路の向こうに人影

がしたので目を向けると、同僚の山村だった。

「おおい、なんだ?平八。どうかしたのか?」

「どうかしたかって、こっちが聞きたいよ。今日は工場が動いてないのか?」

「何寝ぼけてるんだ、平八。今日は日曜日だぜ。お前、休日出勤か?俺は当直だから来

てるけど。」

はぁ?今日は…日曜日?あれ?俺、寝ぼけてるのか?慌てて手帳を取り出してカレンダ

ーを眺めて…どうやら間違えたらしい。こんなことってあるんだなぁ!思わずこみあが

ってくる笑いを噛み締めながら村田に告げた。

「ああ、ちょっとな、忘れ物したんで、取りに来たんだ。」

 工場を背中に、大声で笑いながら平八は自転車をこぐ。金曜日の夜飲み過ぎて、土曜

日一日寝てたと思っていたが、本当は数時間眠っただけで、パチンコに出かけたのは日

曜日じゃなくってあれは土曜日だったのか!本当に不思議な感じだけど、平八はまる一

日眠ったつもりが、そうではなかった。一日分得した気分だ。帰りはゆっくりと自転車

をこぐ。あのアーケードの怪しい光はもう無くなっていた。もしや、あのアーケードの

怪しい光は時間を飛び越すワームホールだったりして…そうだったら面白いのだが。得

した一日をどう過ごすかなぁ?平八の姿は日曜日の商店街の中へ消えて行く。

                        了


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