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第九百十四話 視っ点の? [文学譚]

 小学教師である渡辺は自慢のタブレット端末を手に六年生の教室に立っていた。

「今日はみんなに”視点”という話をしてみようと思う。視点って、わかるかな?」

 既に前回の授業で話をしているので、ほぼ全員がはーいと元気な返事をした。

「これ、先生が持っているもの、知ってるね? そう、タブレットだね。先生今日はこれをこの映写装置につなげて画面を前のスクリーンに映し出してみんなに見せます」

 渡辺は言いながらタブレットを機器をつなぎ、画面をスクリーンに映して見せた。

「さぁ、これ、知ってる人」

 地球の形をしたアイコンを指さすと、何人かがはーいと答えながら手を上げ、もっとも自己顕示欲の強い一人が「ガーグルアース!」と知識をひけらかした。

「ああ、そうだね、その通り。では、これを……クリック!」

 渡辺がアイコンをクリックすると、スクリーン全体に宇宙が映し出され、その真中に地球が浮かんでいる。

「これはなに?」

「地球でーす!」

 そうだねと言いながらタブレット画面を指でなぞって地球を拡大していく。すると地球はどんどん膨らんでいき、日本列島がクローズアップされていく。生徒たちは少し興奮しながら、あ、日本だ日本だと声を上げ、さらに列島が拡大され、自分たちの地域、この町の姿が見えてくると、先ほどの自己顕示欲が「ああー! この町だぞう!」と奇声を上げた。さらに画面を拡大していくと、町の東南にあるこの小学校の上空が映し出された。

「わぁ、うちの小学校だ!」

「先生、どうしてこんなことができるの?」

 別の生徒に訊ねられたが、渡辺はきちんと答えられない。

「あ、ああ、これは地球の周りをまわっているGPS衛星っていう人工衛星に搭載されたカメラからの映像……だと思うんだが……」

 渡辺は、たぶんそんな事だろうと思うことを自信なげに答えながら、さらに拡大を試みてみる。普通は、学校の上空写真までしか見えないはずなのだが、スクリーンが大きいだけに、意味もなくもっと行けそうな気がしたのだ。すると、画面はさらにクローズアップされていき、天からの角度も斜めになり、横になり、校舎の窓が見えてきた。この六年三組がある三階の窓に近づいてみると、中の様子まで見えてきた。黒板の前でタブレットを捜査している渡辺の姿、スクリーンを見ている生徒たちの姿。そうしたものがリアルタイムに映っている。こんなことができるんだ。すごいなぁ、最近のアプリは! 渡辺自身、はじめての体験に驚きながらさらにクローズアップを試みる。どういう仕掛けかわからないが、既にカメラ視点は教室内に入っており、渡辺が立っているあたりからの視点で生徒たちを映し出している。さらに拡大。前に座って目をキラキラさせながらスクリーンを見つめている坂田君がアップになる。さらに拡大。顔、鼻、カメラは坂田君の鼻の中を大きく拡大して真っ暗になった。暗転が続いて終わりかと思うと、急に青みを帯びて、星空が広がった。その真中あたりに青い星があって……地球が浮かんでいる。

「せ、先生、いったい?」

 生徒たちが渡辺に質問する。

「しぇ、しぇんしぇい……」

 先ほどの坂田君が悲鳴を上げた。

「く、くしゃみがでそうでしゅ!」

「え? さ、坂田君!」

 渡辺はどうしたらよいかわからないまま、タブレットの中の地球を眺めていた。

                                                  了


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