第七百九十四話 ランション祭り [文学譚]
あの頃、決して早かったわけではない。県大会でもなかなか上位に入り込むなんてことはついにできなかった。だけど、リタイアしたことは一度もなく、成績はよくないけれど も完走し続けたことだけが自慢だった。体は大きくないけれども、やや肥満気味の体型であり続けたし足も長くはないので、まあ、それが原因かどうかはわからないけれども、自分はそんなものだと思っていた。
早く走れないのにどうして走るのが好きになってしまったのかはよくわからないけれども、 人間誰だって、青春時代を過ごした事柄には妙に愛着心を持ち続けてしまうということに気がついたのは、大人になってまた走るようになってからだ。正直な話、いまはむしろダイエットっていうか、健康のために走っているという理由が大きいかもしれない。もともとでっぷりしている自分の体を鏡で見ていて、このままでは中年になったときにデブになってしまう、そう懸念したのだ。
ここだけの話、マラソンランナーって、競技で走っているときに尿意を催した場合、どうしてると思う? 急いでトイレに駆け込むっていうのが正解っぽいけれども、実際競技中にそんなことをしていたら負けてしまう。もちろん、はじまる前にちゃんと出しておくっていうことは大事なんだけれども。でも、ひとの身体ってとんでもないときに排泄したくなったりするものなんだ。高校時代にそんなことがあって、コーチに訊ねると、そんなものは走りながらやっちまうんだと答えた。ランナーの尿など、汗と一緒だという。それ以来、僕は平気で走りながら排尿できるようになった。走りながら排尿することを我々は「ランション」と呼んだ。こんなこと、ランナーである当事者しか知らないことだろうけれども。
もちろん、いつもそんなことをしているわけではない。走っている最中にどうしても我慢できなくなったときだけなので、そんなに汚い話だと思わないでほしい。とはいえ滅多にあるわけではないけれども、週末に長距離をはいっているときにもよおしたりすると、僕は迷わずランションするのだ。
仕事先に向かう途中、バスが渋滞に巻き込まれていて、約束の時間が迫っていた。バス停を降りてから得意先までは歩いて十五分ほどある。駅で尿意を感じたが、トイレに寄っているといよいよ間に合わなくなるので、僕は我慢して走り出した。走るのは大好きだ。ところが走り出して間もなく、下腹が揺さぶられて急激な尿意が訪れた。いまはランニングウェアを着ているわけではないから、出すわけにはいかない。いまランションなんてしたらスーツが台無しになってしまう。だが、習慣とは恐ろしいもので、無意識のうちに排尿しそうになる。ああーもうだめだ。ぐっと我慢をした表紙に下腹に力が入ってしまった。はずみとは習慣以上に恐ろしいものだ。「ぶりっ」次の瞬間、僕はランションならぬランウンをしてしまっていた。
了
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