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第七百九十一話 休戦白紙化 [文学譚]

 随分長い間休戦状態になっていたのだが、突然白紙化を宣言されてしまった。おかしな話だが、休戦白紙というものを突きつけられてはじめて、ああ、争いはまだ終わってなかったんだと、再認識した。

 そもそも争っていたのはもう何十年も前なのだが、あまりにも不毛な争いだと双方ともに気がついて、だからといって勝敗を決するわけにもいかず、どちらからともなく休戦を申し出てとりあえずそういうことにしようということになったのだ。それからは元通りに仲良くなれたわけではないし、小さな小競り合い程度のことは何度もあったけれども、お互いに牽制し合いながらとりあえず平和な日常を続けてきたわけなのだが、ここ数年の間にお互いの環境も変わった。こっちは経済的にも安定しているものの、昔のような勢いはなくなってしまっている一方で、むこうは年月を経ていろいろと学んだのであろうけれども根拠のない自信をつけて、なにかにつけてこっちを威嚇してくるようにはなっていた。なんでいま頃そんな態度をとるのかなぁと不穏な空気は感じていたのだが、ことを荒立てたくなく、今の平和な状態を維持するに越したことはないと思っているので、折々にはまぁまぁと懐柔的な態度で対応し続けてきたのだ。

 それが昨日になって突然の白紙化宣言だ。いったい何を考えているのだか。休戦白紙ということは、要は戦いを再開しましょということなのだろうか。もう長いことまともに話し合ったりしたことがないので、むこうが何を考えているのかわからない上に、いまさら話し合おうなんてことを提案するのもあまりにも敷居が高い。

 どうしたものか、これからまた毎日不安定な気持ちで過ごさなければならないのかと思うと、胃を悪くしそうだけれども、当面むこうがどう出るか、様子を見守る以外になさそうだ。人間とはほんとうに面倒くさいものだ。なぜ自分の利益や立場ばかりを考えるのだろうな。

 俺たち夫婦のことなんて、世界で起きていることからすれば小さなことなんだろうけれども、俺にとってはそれがいちばん身近で大きなことなんだ。夫婦争いの休戦白紙化なんて、ほんと、やめてほしいよ。

                               了


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