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第六百六十八話 賢一郎インタビュー [日常譚]

 あたしの名前は、賢一郎。ううん、男じゃないわ、女の子よ、れっきとした。

ウチのパパがね、あたしが生まれたときにほんとうは男の子が欲しいって思っ

てたんだって。絶対男の子が生まれるって信じてたからさ、もう名前は賢一郎

って決めてたんだって! でもあたしが生まれてきたもんだから、それでもい

いやって、女のあたしに賢一郎って名前をつけたんだって。

 あたしはね、そりゃぁもう、小さい頃から賢一郎、賢ちゃんって呼ばれてき

たから、何も不思議に思わなかったわ。だけどさ、小学校に行くようになって、

先生が出席簿見ながら「山田賢一郎くん」なんて呼ばれるようになって、それで

回りのお友達がくすくす笑うからなんだかおかしいなって思うようになった。

いじめられたんじゃぁないかって? ううん、とんでもない。あたし、賢一郎

って名前のせいかどうかわからないけれど、結構男勝りでさ、その頃から空手

道場とかいかされてたし、腕には自信があったから、クラスの男の子もあたし

には一目置いてたわ。それにね、あたしと同じような子が他にもいたの。

 誓太郎って言うんだけど、この子のパパも、やっぱり男の子を欲しがってい

たんだって。うん、誓太郎もれっきとした女の子よ。だけど、誓太郎はあたし

と違って気が弱くって、泣き虫で。だからいじめられないように、いつもあた

しが守ってあげてた。だからとっても仲良しよ。あたしと誓太郎は、仲が良過

ぎて、小学校を卒業する頃には「賢一郎&誓太郎兄弟」だなんて漫才コンビみ

たいに呼ばれてたわ。

 中学生になってからは、出席とるのに下の名前を呼ばれなくなったから、少

しほっとした。そりゃぁ、あたしは慣れてるといっても、初めて賢一郎って名

前を聞いた人はさ、やっぱり混乱するみたいだし。うん、誓太郎も同じ。中学

も高校も一緒だったわ。

 高校に入ってから、同じ暮らすの男の子と付き合うようになったわ。彼の名

前は夢子っていうの。ほんとうは夢子って書いて「ユメシ」って読むらしいん

だけど、面倒くさいからユメコって呼んでた。それに、ユメコって身体も華奢

で、顔もかわいらしくて、女の子みたいだったし。そう、彼のところの親は、

ほんとうは女の子が欲しかったのね。それで、名前だけじゃなくって、お洋服

や玩具なんかも、女の子のものを与えて、女の子みたいにして育てられたんだ

って嘆いてたわ。本人も高校生になるまで、ずーっと自分は女の子だと思って

たって。だからやっぱりなよなよしてるわよ。あたしのほうがずっと男の子っ

ぽいかも。でも、ユメコの可愛いところがあたしは好き。ユメコだってあたし

のことを頼ってくれてるみたいだし。

 ああ、そうだ。名前の話だったわね。変わった名前はあたしたちだけじゃな

いわよ。あたしたちの時代は、みんなちょっと変わった珍しい名前の子が多い

の。そうだ、今度紹介するわ。ええーっと、ラブでしょ、ラブホでしょ、それ

から遊女と書いてユメって読む子、右翼と書いてライトと言う男の子、あと、

ジェダイとダースベイ太と、スリーピ生、陸海空っていう感じの子もいたわね。

これ、なんて読むかわかる?陸海空って……うふふ、今度教えてあげる。あな

たは? ン? マルちゃん? 東洋水産のマルちゃんっていうのね、じゃ、ま

た今度ここで会えたらね!

さよなら!

                      了


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