第六百四十話 遠隔コントロール [空想譚]
大きな開口部のある部屋のリビング。ミズルは窓際のワークデスクの前でPC
に向かってひとり言を言いながらマウスを動かしている。へへ、こないだはちょ
いと危険だったな。あんまり上手くやりすぎて、逮捕者続出だったものな。俺の
手管はパーフェクトだからさ、官憲の奴らには見破れないんだなぁ、困ったこと
に。見破られないのはいいけれども、それじゃぁつまらない。何が目的かって、
俺はやつらとぎりぎりのところで勝負がしたいっていうことなんだから。なんとか
いうんだよな、俺みたいなの。なんだっけ、ゆうかい犯? いや違う違う、ああ
そう愉快犯。愉快犯だなんて,愉快な名前をつけちゃってさ。その割には、無
作為に選び出したユーザーのパソコンに、特性ウイルスを注入して、それで
そいつのパソコンを遠隔操作していたなんてことが、奴らにはわかんなかっ
たんだもんな。わからんというよりも、知らなかったんだな、そういうの。
あのままだったら、俺がしかけたユーザーはすべて逮捕されてしまって、そ
のままだったろうな。それじゃつまらない。俺は勝負がしたいんだから。まぁ、
第一弾としては、見破れなかったという時点で俺の完全勝利なんだけど、試
合はコールドゲームじゃぁつまんないし。だから俺は、自分の手管を明かして
やった。別のところにまた遠隔パソコンからメールしてな。それからが面白かっ
た。ようやく操作の矛先をハッカー業界に向けてきたから面白くなりそうだった
んだけれども、そうなりゃぁ今度はこっちが危ない。いや、もう少しで操作の手
が及ぶところだった。もう、同じやり方じゃぁまずいから、今はさらに手の込んだ
やり方にしてるんだよ。
ふふ。これはまた操作陣は困るだろうな。何しろ今度は、俺が遠隔操作してい
るパソコンから、さらにもうひとつ別のパソコンを遠隔操作して悪戯してるんだか
らな。いやぁ、テク的にはもういっちょうパソコンをかませることだってできるんだ
けれど。今回は一つかましで充分かな。へへへ。また官憲の奴らはまごつくだろ
うなぁ。けっけっけ。おもしれー。けけけっけ。さぁ、今度は誰が捕まるのかな?
◆ ◆ ◆
「おい大丈夫か、ちょっとやり過ぎじゃないのか?」
「でもさ、このくらい遊んだ方が面白いし」
「で、どうなんだい? 奴はまだ気がついてない?」
「ああ、もちろん気づいてないさ。全部自分の力で、自分の意思でやってると
思ってる」
「しかしまぁ、俺たちもすごい技術を開発したもんだよな。ITと生理学の融合
だなんて。まさか、遠隔操作されてるなんて、誰も思わないよな」
「まぁ、パソコンの遠隔操作はこないだの事件で随分知れわたったけどね。
まさか遠隔操作で自分の頭脳が操られているだなんて、そりゃぁ誰も気が
つかないわなぁ。こんなシステムを考えついたやつぁ、天才だね」
「そうだろ? 俺、オレだよ俺」
「へへ、それだって俺のスキルあってのことだろ?」
「俺たちちゃ、天才!」
「天才人間ハッカーだ!」
ハッハッハ! ハッハッハ!
了
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