SSブログ

第五百五十三話 会社ごっこ [日常譚]

「百年に一度の世界的不況、そして昨年度の震災。これでは低迷続きの景気も、

回復のしようがない。だからといって、このっま手をこまねいていたのでは、我社

もジリ貧状態になってしまう。違うかね、常務?」

「社長、誠にそのようなことで、私も遺憾に存じて存じます」

「専務はどうかね」

「ええ、社長、私も同感でして……ここらでひとつ、何かパァーっとした施策

が必要かと」

「ほぉ、パァーっとした施策なぁ。で、そのパァーっとした施策とは、具体的

にはどのような施策かね、専務?」

「あ、は、はぁ、それは特に、そのような施策は……」

「なんじゃ。専務、君は具体策もなしにそのような適当な意見を述べたの

かな?」

「あっ、いえ、まぁ、その、あの」

「なんだ、その阿呆みたいな返答は。君は我が社の上層部の人間なんだ

から、もっとしっかりしてもらわねばならん!」

「あの、社長。そう、専務を責められなくても……こういうことは、むしろ現

場の長である営業本部長の範疇かと……」

「なるほど。営業本部長なら、何か具体策があると?」

「な、営業本部長、何かあるな、君なら。具体策の妙案が」

「えっ? なんですか? 聞いていませんでした。えっ? 現状打開の妙案、

ですか? そ、、そんなもの」

「そんなものなんだね? 君は現場のトップなんだから、なんか考えている

ことがあるんじゃないのか。いや、あるに違いない。ないなどという返答は

いらん」

「しゃ、社長……そんな……常務もお人が悪い。急に私にそんなことを振ら

れましても……私だって毎日の営業マネージメントでていっぱいなんですか

ら。そういう社を上げての戦略施策は、むしろ営業の現場ではなく、戦略企

画室の管轄ではないのですか?」

「それもそうだな。うむ。では、執行役員でもある企画室長に意見を聞こう。

どうかね、何か具体的な妙案があるのかね」

「はい。もちろんございますわ。あなたたち愚鈍な男どもがお互いにネチネチ

と責任のなすり合いをしております間に、私ども企画室では日々、明日のこと

を考えておりますのよ」

「な、何? ぐ、愚鈍な?!」

「まぁまぁ、社長、落ち着いて。で、室長、お尋ねしますが、その具体策とは?」

「ええ、いろいろございますわ。まずは、宿題の問題ですか。みなさんは日々

遊びに明け暮れて、挙げ句の果てにこの企画室長である私のノートを写しに

いらっしゃる。それはおやめになったほうが。ご自分の力で何とかしてこそ、明

日への能力が開発されるん織ではありませんか?」

「ぐっ……」

「それから、お小遣い。これも、後先考えずにとっとと使ってしまうから、月末に

なって私に泣きついてきたりするのじゃありませんか。そういうことは、もういい

加減にして、もっと計画的に考えるべきですわ。それから……」

「あー、つまんない。もうやめよ」

「な、なんですって? つまんない?」

「そうだよぉ。もう社長役のシゲちゃんばっかりいつも偉そうにして、僕たち

はいつも手下みたいな役ばっかりで」

「まだケンちゃんは常務だからいいよう。俺なんかいっつも現場の長だとか

言っておだてられて、結局この中でいちばん下じゃぁないか」

「まぁまぁ、そう言わずに。誰かが何かの役をしなきゃぁ、会社ごっこになら

ないんだから」

「それにしても、会社ごっこなのに、しずちゃんはいつも現実の話をしちゃう

んだもんなぁ」

「だってぇ、みんないっつも最終的には私に難しいことを押し付けてくるんだ

もん。ほかに何も言うことないし」

「だよなー。だいたい、なんで会社ごっこなんだよ」

「ほんとほんと。ぼくのパパが本当は社長で、みんなのパパは部下じゃない

か。あっ、もしかして、だから社長の子供の僕に専務をやらせるのか?」

「そんなんじゃないやい。会社ごっこっておもしろいじゃん」

「もう飽きちゃったよ。次は、国会ごっこにしようぜ」

「国会ごっこか。それ、いいね。」

「俺、ぜったい首相と原子力委員会理事長役は嫌だからね!」

                           了



読んだよ!オモロー(^o^)(2)  感想(0)  トラックバック(0) 
共通テーマ:

読んだよ!オモロー(^o^) 2

感想 0

感想を書く

お名前:
URL:
感想:
画像認証:
下の画像に表示されている文字を入力してください。

Facebook コメント

トラックバック 0

トラックバックの受付は締め切りました

 

この広告は前回の更新から一定期間経過したブログに表示されています。更新すると自動で解除されます。