第四百五十五話 挫折の天使、失恋の神様。 [恋愛譚]
挫折の天使って、聞いたことあるかい?知らないだろうな。だって俺も初め
て聞いたから。誰に聞いたかって・・・なんだっけな。あ、そうそう、テレビで作
家か何かが喋ってた。そう、あれは何かの映画の前説だったと思うな。で、
挫折の神様ってどういう意味かって?気になるだろ?
俺はてっきり挫折した時に助けてくれる天使のことだと思ったんだ。ところが
違うんだって。むしろ、挫折させる天使。誰かの人生がうまく運んでいるのに、
絶妙のタイミングでつまづかせる。つまづくことによって、その人は気づき、反
省をし、その部分を強化してさらに強くなって次の一歩を踏み出すそうだ。
おいおい、そういうのってあり?俺はさ、そんな余計なことしていらないなぁ。
今だって十分につまづいてきたし、これ以上挫折なんてしたら、もう立ち直れ
なくなるかもしれないし。何につまづいてるのかって?聞く?そんなこと。それ
って俺の傷口に指突っ込んでグリグリやるようなもんだぜ。
ま、俺はさ、いろいろ挫折してきたけどね。仕事でつまずくなんてあったりま
えじゃん。そんなこと気にしないね。第一、仕事ではそんなに高い目標を持っ
ていないからね。もう、なんていうか、このくらい。ほら、くるぶしのところくらい
かな?このくらいのハードルなのに、それにつまづいちまう。あ、いや、こんな
低いからこそつまづくのかもな。だってほら、草原の草を右と左で結んでつくる
トラップ。あれってつまづくでしょ?だけど、それくらいのでコケたところでさ、ち
ょいとすりむく程度で、痛くもなんともないさ。すぐにまた歩き出せるし。あと、
そうだなぁ、家族?両親とは良く喧嘩するよ。ウルサイからね、あいつら。人の
ことをなんと思ってるのか、ああしろこうしろ、これはいけない、あれもいけない。
俺、もういい大人だよ?親が小さい子供を叱ったりするの、あれって、本当は
あまりよくないらしいね。だってほら、子供だって一人の人間だぜ。それを、その
人格を無視して、親の思い通りにコントロールしようなんて間違ってる。俺の場
合、こんなおっさん捕まえてああだこうだって。こりゃあないよな。これはつまづ
くよ、親の言葉に。でもな、そんなもの右から左さ。右から左へ~受け流す~っ
てもんだな。
挫折っていうか、つまづきで、俺が痛いぜって思うのはな・・・ウヒィー・・・言っ
てしまうとこだった。くっくっく・・・そう簡単には教えられないぜ。俺にとってはこ
れは見すごせない一大事なことなんだからな。何かって?聞きたいの?それ
はな・・・ウィーっヒッヒ!言ってしまいそうになった!クックックッ!え?何?早
く言えと?わかった。教えてやろう。それはな・・・。
女だ。いい女がいるのよ、あっちにもこっちにも。そんで、そういうメンタとよろ
しくやってる兄ちゃんがいるわけじゃない?そいつがどんな面してると思う?ブッ
ブッブ男!俺に輪をかけたようなブサイク!なのに、いい姉ちゃんといるわけよ。
そんなんだったら、俺にだってお姉ちゃん来てくれてもいいはずだろ?そう思う
から、俺は目に入ったお姉ちゃんを誘うわけよ。そしたらな、心良く返事してくる
どころか、笑いやがんの。目を釣り上げて「ゲッ!」なんて言って走って行く女も
いたな。ひどい時には完全無視。目の前に俺がいるのに、誰もいないかのよう
に振舞って無効に逃げていくのな。ひどくない?
毎日毎日、こんなことの繰り返し。俺は他のどんなことにも挫折感なんて感じ
ないけどね、こと女に関してはもう~挫折の連続なんだよ。だからね、挫折の
天使さんなんて姉ちゃんに、これ以上掻き回されたくないわけ。むしろほら、こ
ういう俺って、神様だと思わね?そ、向こうが挫折の神様っていうのならね、俺
はもうこれは神様よ。失恋の神様!
挫折の天使vs失恋の神様・・・どっちが強いと思う?しらんって?そんな冷た
い・・・そりゃぁ神様が強いだろうて、そう言ってよ。ま、とにかく千人切りじゃない
がな、こちとら千人振られじゃない?これはもう、神様だよ。振られの神様・・・
いやそりゃ格好悪いから、失恋の神様。
なるほど、そうか。閃いたよ!俺、これで商売できるかもな。
「失恋の悩み、萬承ります、by失恋の神様」
これってどーよ。イーんじゃなーい?いかにも助けてくれそうだろ?よしよし、
おれ、これで明日からメシ食ってこ。「よろず引き受けます、 by失恋の神様。」
まさかこの様子を、挫折の天使が空から見ているなんて、俺はこれっぽっち
も考えてみなかった。俺は、三歩歩くか歩かないかでつまづいてしまった。
了
Facebook コメント
感想 0