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第四百二十三話 くろう人の承継者。 [日常譚]

 私がドアをノックすると、まだ小学生であろう小さな男の子が扉を開いた。

「三木様でいらっしゃいますね。ようこそ、いらっしゃいました。先ほどから

大谷が待っております。どうぞお入りください。」

男の子はニコニコしながら私を招き入れた。

「おやおや、随分と躾の行き届いた子だねぇ、君は。大谷社長のお孫さん

な?」

「その件につきましては、後ほど大谷からお話しされる事かと存じます。どう

ぞ、ソファにおかけください。まもなく大谷がまいります。」

 ほどなく奥の扉が開いて大谷社長が現れた。まだそれほどの年寄りでもな

いだろうに、大谷はまるで隠居老人のように杖をつきながらゆっくりと歩いて

来て、私の正面に尻を落とした。

「おお、三木くん、よく来てくれたな。どうだね、調子は?」

「ええ、まぁなんとか・・・社長もお元気そうで。」

「元気・・・か・・・まぁ、そうだな。それはそうと、チビがお出迎えしたかと思うが。」

「ええ、とても躾の行き届いた男の子ですね!」

「そうじゃろそうじゃろ、何しろくろー人じゃからな。」

「苦労人?ほぉ、苦労するには若すぎると思いますが・・・。」

「そうかな?しかし、そういくらくろー人でもそうおいそれとは急成長出来る

ものではないぞ。」

「ははぁ、そりゃあそうでしょうよ。だから私はあんな小さい子供がどうして

苦労なぞしたのか、不思議で・・・。」

「あ、いや、苦労人ではないぞ。クローン人だ。おーい、こっちへおいで!」

隣の部屋からの扉を開けて、先ほどの男の子が部屋に入ってきた。男の子は大

谷社長の隣にちょこんと座ってニコニコしていた。

「こいつはな、私のクローンだ。だから小さい子供だけれども、私と同じ知能と知識

を持っておる。だから躾が行き届いてるのではなくて、私が苦労して身につけてき

たものをすべて持っておるのじゃ。」

「苦労人ではなくて、クローン人?大谷社長、またそんなややこしいものを作って・・・

いったい何を考えてるんですか?」

「いやいやいろんなことを考えておるぞ。例えばこいつはワシの跡継ぎじゃな。」

「僕がまた年寄りになったら、またクローンを作るよ。」

「これでわしらは永遠じゃ。」

大谷社長と少年が口をそろえてそう言った。

                                   了


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