第百五十四話 枯れ花の部長代理。

　「代理！もうすぐ代理の時代が来ますね・・・！」

耳元でこっそりささやくのは部下の山田だ。こいつはまだ若いせいか、口が軽くって

困る。だが、確かに私はこのチャンスのために今日まで頑張ってきたのだ。

　私は今年五十一歳になった。大学を出ていない私は、学歴にコンプレックスがあっ

たのだが、実力主義が台頭してきた昨今では、仕事が出来さえすれば、学歴なんて関

係ない時代になってきたのはありがたい。しかし、かつてはそうではなかったから、

私はしゃかりきになって働いてきた。この会社に入って三十三年間、事務用品を売る

ためなら、悪事以外はどんなことでもやった。お陰で何度もトップセールスを表彰さ

れもしたし、大卒のやつらよりは少し遅れたが、それでも順調に昇進もしてきたのだ。

　そして今は第２営業部の部長代理。この部のトップはまもなく定年退職になる。す

ると、必然的に私の出番になるはずだった。

　ところが、長期にわたる景気低迷の上に、先般のリーマンショック、そしてこの度

の大震災などで、社会の状況がまた少し変わりつつある。すでに年功序列的な人事配

置はなくなってしまっているのだが、各企業経営者はさらに厳しい方策を採り始めて

いるのだ。派遣切りならぬ、ロートル切り。早い話がリストラ政策だが、それ以上に

若い世代へのシフトという姿勢が強くなっている。それでも私に不安はなかった。す

でに部長代理という席を確保しているし、ほんの二年前までは現役ラインとしてトッ

プの売り上げを何度も残して会社に貢献してきているからだ。

　新年度の会社経営方針会。ここで、新人事も発表される。我が部はすでに公となっ

ている元部長の退職前の役職定年を踏まえた人事が発表されるはずだ。全社員が大会

議室に集められての発表。社長の長い講釈の後、常務による経営方針発表。これも１

時間半に渡った。そして紙面によって新人事が公表された。

　配られた紙面を手に席に戻った私は、落ち着いて、また出来るだけ表情に出さぬよ

うにしてそぉーっと紙面を開いた。第二営業部・・・昇進、門松英治。え？！何？私

じゃないのか？門松はうちの部の第二課長だぞ。どういうこと？では私はあの若造の

下で代理をやるのか？・・・部長代理職を廃止、重松隆・仕入れ部部長補佐。な、何

だこれは？きいてないぞ！どういうことだ！？

　はっきり言おう。私はリストラされたのだ。いや、まだリストラではない。だが、

その第一候補者であると明確に判を押されたのだ。仕入れ部はかつては重要な職務だ

った。だが、ワンストップ政策がなされている昨今、仕入れから販売まで、すべて営

業部が行う。つまり、仕入れ部なんていうものは不要な部署なのだ。今では資料室か

仕入れ補佐的な存在としてどんどん縮小されている部署なのだ。あれだけ会社に貢献

してきた私が何故こんなことに？

　企業とは、組織とは、そしてサラリーマンとはそんなものだ。いまさら言っても仕

方のないことなのだ。文句があるなら辞めればいい。それが嫌なら与えられた職務で

頑張るしかない。何故？とトップに問うたところで、過去は過去、これが今のお前の

実力であり、役割なのだと言われるだけだ。腐っても管理職に在職している身として

は、それくらいのことはわかる。

　昔は、江戸時代だが・・・人生は五十年だった。それが長生きになり寿命は延びた

が、今や労働寿命はまた五十年にシフトダウンされようとしているのだ。私の人生。

泣こうがわめこうが、もはやそれはこの会社の中にいる限りは終わってしまったのだ。

　　　　　　　　　　　　了

 

 

タグ：退職

感想 3

ご訪問ありがとうございます。
毎日一話。学生時代にやったことあるんですが、
約3か月しか続きませんでした。
千一話目指してがんばってください。
楽しみにしています。
by hisa (2011-06-28 17:01) 

ご訪問ありがとうございます。
最近上司のパワハラがひどくてしんどいです。
by marimo (2011-06-28 22:05) 

thanks!for hisa & marimo!
hisaさんもお話を書くんですね、３ヶ月も？素晴らしいです。
marimoさん、パワハラ、取りあえず無視して、委員会に提訴しましょうよ。
by momokumi (2011-06-30 02:23)