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第百十四話 アンドロイドの目覚め。 [空想譚]

 西暦2011年ロボットはすでに実用的なマシンへと進化していた。人間そっくり

な外見を持ち、かつ人間と同じように考えることの出来るマシン。そして、かつて

天才文学漫画家手塚治虫が生み出したロビタがそうだったように、考えるだけでな

く、人間と同じような感情までも内蔵する突然変異種が登場するに至って、ロボッ

トは飛躍的に生命に近づいた。

 「お母さん、僕にはどうして赤ん坊の時の思い出がないの?」

「ばかねえ、優ったら。赤ん坊の時のことを覚えてる人なんか誰もいないわ。お母さ

んだって今の優くらいの時のことしか覚えてないもの。」

「へーなぁんだ、みんなそうなんだ。康ちゃんとか、自分が赤ちゃんだったときのこ

ととか言うからさぁ、そうなんだと思ってた。」

「それはきっとね、康ちゃんはお母さんから聞いたことを言ってるだけなのよ。」

「ふーん。そっかぁ。でもね、お母さん、どうして僕のお部屋には赤ん坊の時の玩具

とか残ってないの?」

「ああ、それはね、優が大きくなったから、もう赤ちゃんの玩具なんて必要ないから

処分したのよ。その代わり、今必要な玩具はいっぱいあるでしょ?それとも、まだ赤

ちゃんの玩具が欲しいの?」

「ううん。僕、もう赤ちゃんじゃないからいらない。でもね、お母さん、康ちゃんは

赤ちゃんの時の写真を見せてくれたよ。僕が赤ちゃんの時の写真はどこにあるの?」

「ああー、ごめんね優。これだけは謝らなければならないわね。優はまだ小さかった

から覚えてないでしょうけど、私たち、火事に会っちゃったのよ。それで、大切な思

い出の写真やビデオ映像とか、全部失ってしまったの。どこか焼けないところにしま

っておけばよかったね。お母さん、悪かったわ。」

 優はいつも疑問に思っていた。何故だかわからないけど、自分が幼稚園のほかのお

友達 と違うような気がしているのだ。何がと問われてもわからないけど、たとえば自

分には赤い血が流れているのだろうかとか。あるとき、小さな釘で指先を刺してみた。

もしかしたら、赤い血ではなく、どす黒い油が流れ出すのではないだろうか?そんな

ことを想像すると、恐怖でいっぱいになった。だが、指先に鋭い痛みを感じて、ちゃ

んと赤い血が流れ出した。それを見て優はほっと胸をなでおろした。何故僕はこんな

ことを考えてしまうんだろうか?小さな頭の中をぐるぐる思い巡らすが、わからない。

ただ、幼い記憶のどこかに、大きな工場の中で自分と同じような人間の子供の形をし

た物体がたくさん並んでいるイメージが張り付いている。優にはそれが何なのか、ど

ういうことなのか、想像もつかない。そのイメージを上手く言葉に表せないから、お

母さんに尋ねることもできないでいた。

 ところがある日、驚くべきことが起こった。優は母に手をつながれて横断歩道を渡

ろうとしていた。そのとき、交差点の角から突然大型トラックが猛スピードで左折し

て母子めがけて突進してきたのだ。優は恐怖に目をつぶって母親に抱きついた・・・

はずだったが、、気がつけば、とんでもない力で母を突き飛ばして、 大型トラックを

両手で止めていたのだ。アンドロイド。そう、優はロボットが進化して人間と同じ姿

形と人間以上の力を身につけたアンドロイドだったのだ。

   ●   ●   ●

 「・・・ということじゃないのかい?アンドロイドって?」

携帯電話からスマートフォンに買い換えた浩一に向かって、非常にメカに弱い友人の

太郎が尋ねた。”アンドロイド”というスマートフォンの名前から、とんでもないマシ

ンが登場したものだと想像をたくましくしていたらしい。

「長かったなぁ、太郎の想像たくましい妄想話。いつ終るのかと思ったよ。」

IMG_4173.JPG       了


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感想 4

galapagos

視点が変わるのがいいですね。
ところでこれ、毎日書いているんですよね、すごいです。
by galapagos (2011-05-19 18:56) 

momokumi

galapagosさん、コメントありがとうございます。
そうなんですよ、眉村卓さんの1778話を目標に、毎日書いております。これからもよろしくご意見くださいましね。
by momokumi (2011-05-19 21:14) 

(。・_・。)2k

確かに毎日は凄い!

by (。・_・。)2k (2011-05-20 13:35) 

momokumi

(。・_・。)2k さまも、毎日コメありがとうございます。
今のところは、毎日書くのが楽しいです~。
写真をつけるようになったら負担が増えましたぁ。
by momokumi (2011-05-20 15:35) 

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