SSブログ

第八十六話 年下の彼女。 [恋愛譚]

 「そうですねー、私、昔っから綺麗な人じゃないとダメなんです。それに、尊敬でき

る人にすっごく惹かれるし。」

「えー!そんな、私は綺麗じゃないし、ばっかだし、答えになってない。」

今里美樹は凛子より一回り年下だ。職場も違うし、年齢も離れているし、共通の土壌は

何もないのだが、ある異業種パーティーで知り合って以来、月一くらいで食事をするよ

うになった。というのも、美樹から誘いが入るのだ。凛子が常々不思議に思っていたこ

とをさりげなく聞いたときのことだった。

「そんなことないですよぅ。凛子さん、お美しいし、とっても魅力的ですわ。私、凛子

さんみたいな人と会うのが好きなんです。」

「そういわれると悪い気はしないけど、私なんかより、彼とデートする方が楽しいんじ

ゃない?」

「うーん。彼氏は今いないんです。候補者はいっぱーいいいますけど。」

彼氏の話を始めると、しばらくは止まらない。美樹はおとなしそうに見えて、案外男性

づきあいもきっちりやってるタイプで、”お友達”と称する男性は片手では不足するほど

いるらしい。そのひとり一人をしっかり値踏みしていて、帯に短し襷に長しですぅ~み

たいな話を延々と始めるのである。凛子としてはそれはそれで面白いので黙って聞いて

いるが、最近恋愛にも興味を持てなくなっている身としては、さしたるアドバイスもで

きないので、分分、それからどうした?とうなづくばかりである。

 そんな美樹もそろそろいい年齢なので、今年あたりは一人に絞り込みたいなんていう。

一通りの人生を経験してしまったつもりの凛子としては、即座に、「そりゃぁお金よ。」

なんて答えてしまうのであった。

「もちろん、人柄っていうか、気持が合う人っていうのがいちばんに決まってるわ。だ

けどいくら人間がよくっても、経済がだめだったらうまくいかないのよ。だからお金が

いちばん。お金さえあればたいていのことはどうにでもなるわ。ちょっといやらしい考

え方かもしれないけど、私みたいな年齢になればつくづくそう思う。」

「そうですねー。それ、私もわかります。だったら・・・今付き合ってる人は一人を除

いてみんなお金持ちだわ。」

 ああ、なんてうらやましい子。事業経営者、学者、大手企業の役員、資産家の御曹司

・・・そんな人たちばかりとお付き合いしているらしい。私なんて今までそんなご縁は

一切なかったもの。かつての夫は仕事仲間で気は合ったけどお互いに風采のあがらない

勤め人だったから、貧乏で困るということはなかったにしても、裕福という言葉とは全

く縁がなかった。”玉の輿”っていう言葉があるけれども、女だったらあれが最高の幸せ

につながるわ。医師や経営者の夫を持つ友人たちの豊かな暮らしぶりをみてそう思って

きた凛子だった。

「お腹も大きくなったし、バーにでも行って男探ししてみる?」

冗談混じりにそう言って店を出た。周囲はオフィス街なので、それほど飲食店があるわ

けではないけれど、まばらにある中に幹事のいいお店が時折ある。そんなお店のひとつ

に入ってそれぞれカクテルとワインを注文した。二人ともそれほどお酒が飲めるわけで

はないし、美樹はとりわけ飲めない方の部類だ。なのに、バーにでも居酒屋にでも喜ん

でついてくる。凛子もそんな飲めないくせに、調子にのると、ついグラスを重ねてしま

う。男の話、映画の話、職場の話、とりとめもなく延々と話をしているうちに、凛子は

3杯目のグラスを飲み干していた。

「わぁ、もう3杯も飲んじゃった。ちょっと酔っ払ったみたい。」

「私もカクテル一杯だけど、なんだかいい気持ち。もう一軒行きたいくらい。」

「でもぉ、もう電車が危ないでしょ?また今度にしましょ。」

 ビルの2階にあるバーを出て、煉瓦の壁に囲まれた階段を降りようとしたとき、凛子は

一段足を踏み外してしまった。

「きゃぁ!」

思わず美樹の小さな肩にすがり付いて、抱き合うような形になってしまった。

「大丈夫ですか、凛子さん。」

「ふぅー。危なかった。ごめんねミッキー。」

「あたしは平気。」

「ああ、なんだか気持いいわ、このカタチ。」

「そうですね・・・凛子さんの胸、あったかい。」

そうして二人は階段の踊り場で抱き合ったまましばらく固まっていたが、やがて黙って

見詰め合う。

「ミッキー、ちょっといい?」

「うん。」

暗号のような言葉が交わされて、二人は静かに唇を合わせた。柔らかい果肉と果肉が重

なって、出来たての苺ジャムを口にしたときのようなほんのりと温かく優しい感触が頬

のあたりに広がっていく。それは一瞬ではあったが、永遠のようでもあった。

「うふ。」

「えへへ。」

照れながら何事もなかったかのように静かに離れる二人。

「凛子さんなら私、いつでもいいですよ。」

「ええー!じゃぁ、今度はもっと抱きしめちゃうぞぉ!」

美樹にビアン的な経験や指向があるのかないのか凛子は知らないが、少なくとも凛子の

ことは特別視しているのはわかった。男の話をさんざんした後にこういうことになるな

んて、人間って面白いものだなぁ。凛子はそっと美樹の手を握って地下鉄の駅に向かっ

て歩き出した。

                                     了


読んだよ!オモロー(^o^)(2)  感想(3)  トラックバック(0) 
共通テーマ:恋愛・結婚

読んだよ!オモロー(^o^) 2

感想 3

yu-papa

ご訪問くださり嬉しく思っております^^
ブログを読ませていただきましたが、興味を持たずにはいられない・・・
そんな感想を持ちました♪
by yu-papa (2011-04-22 19:18) 

yu-papa

二度もご訪問くださり嬉しく思っております^^
ありがとうございました。
by yu-papa (2011-04-22 19:23) 

Coo

yu-papaさま、ご来訪ありがとうございます。
お互いに一日一日をしっかり生きていきましょうね。
by Coo (2011-04-23 11:49) 

感想を書く

お名前:
URL:
感想:
画像認証:
下の画像に表示されている文字を入力してください。

Facebook コメント

トラックバック 0

トラックバックの受付は締め切りました

 

この広告は前回の更新から一定期間経過したブログに表示されています。更新すると自動で解除されます。