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第九百六十五話 空中公園〜情景描写習作 [空想譚]

 家から歩いて五分ほどのところに歴史上の人物の名を冠した公園がある。古代には都が置かれ、国を動かす人物がこのあたりに住んでいたという。草野球のグランドが二面取れるほどの広さだが、その半分は樹木や花壇が配されていてちょっとした森のようになっている。平日の午後は子供たちが野球やサッカーをして遊んでいるのだが、土曜日の朝になると決まって老人たちのゲートボールコートになる。公園の外縁にはブロック塀に沿うようにアスファルトの小道が設えられていて、ジョッガーのために距離を示す数字が路面に描かれている。夕方になると本格的なジョッギングスタイルで走る者やスエットスーツで早足に歩く人が行き来する。私はというと愛犬を連れて散歩する人間の一人で、朝はほんの短い時間だが、夕方は少し長く公園に滞在する。もともと猟犬である我が犬は草むらの中に鼻を突っ込んでは子供たちが失ったボールを見つけ出す名人なのだが、あるとき公園の東南角にあるこんもりした茂みに興味を持ったようだ。そのあたりには遊具があってこれまであまり近づいたことがなかった。愛犬はどんどん茂みに入り込んでいくのでぐいっとリードを引っ張ると、草むらが割れて愛犬の背後に見たことのない祠のようなものが見えた。

 それはなにか金属でできているようで鈍く怪しい光を放っている。愛犬はさらにぐいぐい祠に近づいてその真ん中あたりにある穴に鼻先を突っ込んだ。そこになにかあったのだろうか、ぎりぎりぎりと重たい音がしてついにはがすんと何物かが何処かに嵌まり込んだような音がすると同時に足元が揺らいだ。

 なんだこれは、地震か? いよいよ地面が揺れはじめ、愛犬も驚いて茂みから逃げ出てきた。周りを見るとほかの人々も揺れを感じて立ち尽くしている。公園は非常時の避難所に指定されているので、ほかに避難するところはないのだ。ほどなく揺れが収まったのでほっとしたが、今度は妙な浮遊感がした。公園の様子は変わりないが、外側にそびえているマンションなどのビルが縮んでいる。高層マンションのはずが、もはや十階建てくらいになっていて、さらに背が低くなっている。

 いや違う。建物が縮んでいるのではない。公園が浮かび上がっているのだ。公園全体がなにか大型の飛行物体なのだ。正確にいうと、巨大なマザーシップのようなものが地中に埋れていて、その上に公園がつくられていたのだろう。南東角にあった祠はその起動装置だったに違いない。古代人所縁の名称は、この仕掛けを後世に伝えるための暗号だった。古代人の名を冠した公園は、この公園だけではない。この地を円形に囲むように幾つか存在していることを思い出した。宙人大兄公園群は、古代の宙舟船隊をカモフラージュするために作られていたのだ。

                      了


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