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第九百二十九話 サバ! [日常譚]

 痩せたんじゃない? そう言われて思わず口元が緩んだ。そりゃぁそうだ。このところ年々体重が増え続けていて、周りから言われるまでもなく、なんでこんなになってしまったんだろうとおなか周りをなでまわす日々だったのだもの。若いころは少々たくさん食べても太ったりなんかしなかった。自分は太らない体質だと高をくくっていた。ところがここ五年の間に完全に中年太りになってしまった。もともと大食漢でもなく、歳を重ねてからはむしろいっそう食が細くなったほどで、太る要因などどこにもないのになぜ? 疑問に思ったところで日々体重が増えているという現実には変わりはない。中年になって代謝が悪くなったからなのだろうが、それにしてもさほど食べていないのに太り続けるというのが解せなかった。

 ところが最近になって、痩せるホルモンが発見されたというニュースを聞いた。調べてみるとたしかにそういうものがあるそうで、実際痩せている人はGLP-1と呼ばれる痩せるホルモンが多く分泌されているという。痩せている人たちは特になにかダイエットをしているわけではなく、食べても太らないそうだ。その人たちはまさに私の若い頃と同じだ。してみると、おそらく私も若いころはそのGLP-1を多く分泌させていたのに、歳とともにこのホルモン量が少なくなってしまったということなのかもしれない。

 さらに調べてみると、GLP-1を増やす方法があるという。もっとも即効性があるのはGLP-1を注射してもらうことなのだが、現時点では糖尿病治療のためだけしか処方されないそうだ。痩せるためという理由では注射してもらえないのだそうだ。しかしほかにも方法があった。食物繊維の摂取と、青魚の摂取。食物繊維の方は野菜を一日18g食べればいいそうだが、これってレタスなら4個半、きゅうりなら18本という量をこなさなければならないそうで、とても無理だと思った。ところが青魚を食べれば、青魚に含まれるEPAという物質によって痩せるホルモンが出るようになるのだという。中でもサバ缶が最も効率的だと知った。

 私は翌日、サバ缶を大量に買って、それから毎日サバ缶を食べ続けた。すると、一週間もすると運動をはじめたわけでもないのに2kg体重が減った。翌週はさらに1kg。こうして毎日サバ缶ばかりを食べ続けて、ついに私は十キロのダイエットに成功したのだ。

 もはや人から「痩せたね」なんて言われなくても自覚できる。完全に痩せた。痩せ続けている。しかしここで安心はできない。サバ缶を食べることによってGLP-1は増えてのだろうが、体質が変わったとは言い切れないからだ。いまここでサバ缶を食べることをやめたなら、間違いなくリバウンドするだろう。そうなっては元もこもない。痩せるホルモンの量を維持するためには、やはりいままでどおりサバ缶を食べ続けなければならない。いまのところサバ缶は、塩味の水煮、醤油味の味煮、味噌煮の三種類しかない。だが三種類あるということは同じ味は三日に一回で済むのだ。慣れてしまうと、日々の献立を考えなくてすむし、三種類あれば飽きもこない。食事なんてこんなものだと思えばいいのだ。実際、犬や猫の食事は毎日毎日同じドッグフードやキャットフードなのだから、それと同じだと思えばいい。

 いま私の家のストック置き場には飼い猫のための缶詰の横に三種類のサバ缶が積み上げられている。猫に缶詰を開けてやり、自分ようにもサバ缶をひとつ開ける。一緒に並んで食べている、というのは嘘だけれども、面倒くさい家事も軽減されて身体も軽くなって、まさに一石二鳥の夢の食べ物、それがサバ缶なのだ。

                                                了


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