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第九百十一話 48 [可笑譚]

 会場は思っていたよりも小さく、集まってくるゲストたちも思いのほか少ないな。レイは内心そう思いながら、しかし昔とは違うんだと自分に言い聞かせた。アスカが口元に笑みを表しながら両手にシャンパングラスを持って近づいてきた。

「思ったより盛況ね、そう思わない?」

 レイとは反対のことを言うアスカの言葉にあやふやに答えて差し出されたグラスを受け取った。

「まぁ、そうかしらね……」

 二人は、他の仲間たちともそうだが、もう長いつきあいになる。これまでも充分に仲がよかったのだが、これから先もこうしたついあいを続けていけるのだろうか。ふと浮かぶ不安をこれまで何度打ち消してきたことか。しかしそのおかげで今日があるようなものなのだ。

 ここはホテルの宴会場。通常は結婚式等に使われることの方が多いのだろうが、百人程度を収容できるくらいの広さに仕切られていて、開場から三十分以上は過ぎているのに、会場にはまだ五十人くらいしかいない。プレスの人間だってもっと多いかと思っていたが、二組ほどしかいないようだ。つまりもはや今日のパーティーはその程度の価値しかないということなのだ。

 かつては日本中を揺るがすほどの人気を誇っていたアイドルグループAKC48だったが、あれから三十年も過ぎてしまった今では、グループが存続していること自体がミラクルなのであって、これであの人気が持続していたとしたら、それはもはや怪奇現象といわねばなるまい。第一、グループの名前が表すように、当初は四十八人の女の子が所属していたのだが、脱落していく者、卒業と称して独立していく者などが続出して、オリジナルメンバーで残っているのは五人にも満たない。結成十年後には人数も減りはじめ、現在ではオリジナルメンバーの五人だけがAKC48のメンバーなのである。司会者がステージ端に立ち、グループの発起人であるプロデューサーの春本に挨拶を促した。タキシード姿の春本は既に八十歳という高齢に達しているが、死ぬまで現役だと宣言して表舞台にでているのだった。

「みなさん、AKC48の結成三十周年パーティーにようこそおいでくださいました」

 春本は昔と変わらぬハリのない話し方で一通りの挨拶をしたあと、咳払いをして皺だらけの表情を少し動かした。

「既にみなさんもお気づきかと思いますが、AKC48が今日まで存続し続けてこれたものの、実質のメンバーは既に五人のみとなっております。これではもはや四十八を名乗るのには無理があるのではないか、そんな声も多々いただいております。そこで今日は、私からひとつ提案とともに新たな宣言をさせていただきます」

 春本は会場を見渡して、また咳払いをした。

「AKC48は、リネームして一層のアイドル活動を極めていくことを宣言します!」

 春本の後ろにたらされている緞帳に上から垂れ幕が下りて来た。

「レイ、アスカ、アツコ、サシフラ、ゴン、五人のメンバーは、今年揃って四十八歳になりました!つまり、48は人数ではなく年齢を意味することになったのです。五人は揃っていわゆるマル高。ご覧ください、新しい名前は……」

 降りて来た垂れ幕を指さしながら、春本が叫んだ。

「へーケーシー・フォーティエイト! 今後ともよろしくお願いします!」

 拍手喝采される中、ステージに向かいながらレイは小声で毒づいた。失礼しちゃうわ。私はまだ閉経していないのに!

                                               了


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