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第八百九十八話 攻撃 [怪奇譚]

 広大な土地に豊かな穀物が実り、私たちはいつでも好きなときにその実りを収穫して腹に収めることができていた。ここは言ってみればこの世に実在する数少ない楽園だった。あれがやってくるまでは。

 私たちはいつものように実りの地に出向き、太陽の光を受けて金色に輝く稲穂の収穫を行おうとしていた。しかしそこには既にあいつが出現していたのだ。私たちは皆一様に驚いた。見たこともない不気味な存在。あれはどうみても人間ではない。哺乳類とは思えない細く堅い脚で大地に立ち、薄汚れたその衣装の裾が風になびいて揺れているのが一層不気味だ。奴は咆哮もせずにただただあの場所に立ちつくして生気のない瞳で私たちを睨みつけてる。恐ろしい。これがまだ人間であったならば、対処のしようもあるのだろうが。私たちは収穫のことなどすっかり忘れてこの恐ろしい存在と対峙していた。そのうち、若者が近寄ろうとしたが、風を受けてパタパタひらめく奴の動きを感じただけでおののいて身体を引いてしまう。誰だってそうだ。未知なる相手にそう簡単に近寄れるわけがない。年長者は相手の正体を探ろうと話しかけるが、そんなことは無駄だった。奴に私たちの言葉は通じない。それどころか、奴らはコミュニケーションなどというものは必要としていないのかもしれない。なにしろ顔色一つ変わらないその表情に浮かぶ口は微動だにしないのだから。

 風が止んだ。皆が私の方に視線を向ける。リーダーである私に何とかしろというわけだ。私だってほんとうは恐怖に反吐が出そうだ。だが、家で待っている子供たちの姿を思い出し、またみんなにも家族があり、収穫できなければ生きていけないことを考え、身体の芯を鼓舞させようと力を込めた。そして奴に攻撃を加えることを決意した。

 私は奴の周りをゆっくりと一回りしてから正面で制止し、いったん後方にとって返してターンし、その勢いで奴に向かって体当たりした。

 くるり!

 奴は軽く身体を交わして一回転する。私は後ろにすり抜けたその足で再び回転して今度は奴の身体の中心目がけて飛び込んだ。

 ばすん!

 一瞬気を失いかけた私は地面に落ちたが、奴の反撃を受ける前に立ち直した。だが、奴は攻撃する前と同じように薄笑いを浮かべたまま立ちつくしている。一体こいつはなんなのだ。反撃しないその様子がかえって気持ち悪い。私の攻撃などまったく意に介していないのだ。仲間にも私の恐怖が伝播していく。皆が後ずさりする。若者が声を上げて飛び去るのをきっかけに、皆が一目散に逃げ出した。もうここはだめだ。私たちはこの地を諦め、新たな楽園を探さねばなるまい。私はそう覚悟を決めて皆の後を追った。

 農地の持ち主が何十年振りかに倉庫から持ち出したそれは、かつて農民が稲穂を害鳥から守るために使われていたものだ。近年また荒らされはじめた田地に、効果があるのかどうか半信半疑で持ち出したそれはどうやら威力を発揮したようだ。雀たちが去った田地に残された一体のみすぼらしい案山子は自らの勝利にほほ笑みながら佇んでいた。

                                            了


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目覚し

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by 目覚し (2013-07-26 17:37) 

バーバリーブラックレーベル

こんにちは、またブログ覗かせていただきました。また、遊びに来ま~す。よろしくお願いします
by バーバリーブラックレーベル (2013-08-02 07:59) 

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