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第八百三十三話 最後の日 [日常譚]

「あと一日しか残されていなとすれば、あなたはなにをしますか?」

 地球滅亡というタイトルがついた怪し気な雑誌の特集ページに書かれてあった質問を読んで、少し考えてしまった。そうだな、美味いものを食べる? だけど美味いものってなんだ? キャビア、フォアグラ、トリュフ、松阪牛ステーキ……世の中には美味いものはたくさんあるし、そんなものを一日で食べきれるものでもないし。お金もないし。

 では、好きなことをする? うーむ。俺の好きなことって……なんだっけ。パチンコ、麻雀、将棋……いやいや最後の日にそんなことに時間を費やすのはもったいない。釣り……釣り場に行ってる間に一日が終わってしまうわ。酒を飲むか……そうすれば酔っ払って気持ちよくなっている間に一日の終わりがやってくるから……それももったいないなぁ。せめて最後のときくらいは素面のままで、正気で迎えたいよな。女のこと過ごす……たって、いますぐそんな相手、見つけられないし。

 さぁ、これが最後だ、好きなことをしろと言われても、何も思いつかないことがわかった。ああ情けない。これが単なる仮定の話ならいいのだけれども、実は、今日はほんとうに最後の日なのだ。だからこそ最後の日にすべきこと、したいことを真剣に考えてみたのだけれども、それなのになにも思いつかないなんて。俺は自分の不甲斐なさがとことん嫌になってしまった。

 斯して、俺の最後の日は終わった。結局何もしないまま。いや、家の中でひとりごろごろしながら。考えてみれば、無趣味で彼女もいない俺がしたいことって、これだったのかもしれない。一人ゆっくり過ごす貴重な時間。ま、これでいいのだ。

 俺は昨日、自分で自分の考えを肯定しながら最後の一日を過ごした。大型連休の最後の日を。

                                         了


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