第八百六話 幸運な出会い [空想譚]
小柄な人物で、顔を見るとどこにでもいそうな普通のおじさんが、ニコニコ愛想を振りまきながら言った。
「どうかな、調子は。最近連絡がないのでみんな心配してるぞ」
この人は何を言っているのだろう。知ってる人だっけ? いやいや私は知らないぞ。こんな変な帽子をかぶったおかしなおじさんに知り合いはいない。いないはずだ。いや、どこかで会ったのかな?
元来物覚えの悪い私としては、次第に不安になるのである。私は一度会っただけでは覚えられない質なのだが、相手は私のことをよく覚えているといたケースが結構あるからだ。
「あのぅ、どちら様……でしたっけ?」
「ええ? どうしたんだ、K009。忘れたのか?」
「K009? 忘れた?」
「そうさ。俺だよ、H1008。あんたはHだって、俺のことを言ってたじゃぁないか」
なんなのだ、この馴れ馴れしさは。いやいやいや、私はこんな人知らない。気持ち悪くなって、私はこのおじさんを無視することにした。相手にするのを止めて立ち去ろうとしたそのとき、おじさんが声を高めて言った。
「あんた、さては健忘だな。地球に落ちてきた時に頭を打ったんだろう。以前、同じようなことになった仲間がいたぞ。そうだろう。忘れてしまってるんだろう」
「な、何を言ってるんですかあなたは。私はあなたなど知らないです!」
「待った待った。ちょっと話を聞きなさい」
「嫌だ。そんな変な帽子をかぶった人に知り合いなんかいない」
「なんだそれは。俺たちは仲が良かったんだぞ」
「そんなはずはない、あんた誰?」
「わかった、教えよう。俺は宇宙人。そしてあんたも」
「宇宙人? 私も? 馬鹿な!」
「馬鹿なって……わからないのだな。じゃぁ、あんたがかぶっているそれは何だ?」
私は驚いて頭の上を手で探ってみた。かぶっている帽子の頭頂部で、おじさんと同じようなアンテナがくるくる回っていた。
了
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