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第七百二話 感染 [日常譚]

 接触感染によって人から人へと広がることは以前からわかっていた。という
よりも、接触によってしか伝染しないと信じ込まれていた。ところが、最近にな
って飛沫感染もありうることがわかってきた。
 飛沫感染とは、微細なウイルスが宙に浮かび上がって、空気を吸い込むこと
によって体内に取り込んで感染してしまうということだ。たとえば感染した誰か
が吐き出したものが床の上に落ちたとする。それはやがて乾燥するかもしれ
ないが、床上の絨毯をほかの誰かが踏みつけたときに叩けば浮き上がる埃と
同じように空中に舞い上がり、舞い上がったウイルスの微粒子はあまりにも
軽いのでしばらく空中に留まり続ける。床を踏みつけた者はもちろん、さらに
やってきた別の者もその空気を吸い込むから、空気と一緒に体内に取り込ん
でしまい、ついには感染してしまう。
 これを防ぐためには、感染者が床上に吐き出したものを徹底的に浄化する
必要がある。ビニール手袋などを装着して、床に広がった汚物がさらに広が
らないように静かに拭き取る。拭き取る時には却って広がってしまう危険性
があるから注意深く静かに行うことが肝要だ。拭き取りは一回では拭いきれ
ないから、二度三度と拭き取る。拭い取った後にもおそらくまだ微細な粒子
が残っているから、アルコールや除菌剤でもう一度きれいにする。できれば
さらに熱湯をかけると念がはいるかもしれない。除菌した後、拭き取った雑
巾や手袋は、できればビニール袋の中に一緒に捨ててしまう。その際に、
ビニール袋もしっかりと口を封じて外に出ないようにする。
 ここまで徹底的に行っても、まだ顕微鏡サイズの粒子が残る可能性はある
けれども、さすがにこれ以上はどうしようもない。それほどこのウイルスは執
拗で防ぎ難いものであるということだ。
 いったん広がってしまったウイルスを抑制するのは困難だ。広がれば広が
るほど困難度は高まっていく。修復できないほど広まってしまったら、最悪
のシナリオとしてはあなたを死に追いやることになるかもしれない。それほど
このウイルスは恐ろしい。再起不能の絶望の淵にまで追いやられた者は、
自ら死を選んでしまうというわけだ。
 しかもこのウイルスは風邪やノロウイルスと違って、季節を選ばない。敢え
て言うと人の気持ちが緩むあたたかい時期が若干多いかもしれないが、概
ねどんなときにも発生するのが特長だ。面白ければ面白いほど、不幸であ
れば不幸な話であるほど、広がり方は早いし強烈だ。もうそうなれば、バン
デミック状態であると言わざるを得ないだろう。
 いまもどこかでウイルスがばら蒔かれているようだ。
「ほらほら、知ってる? あそこの奥さん、コレですってよ、コレ。そりゃぁもう
ご主人と大変なことになっているらしいんだから」
「あらぁ、面白い話。早速誰かに教えなきゃ」
 ウワサウイルス。それは人類に脅威をもたらす。
                                      了
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