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第百一話 ネット愛好会。 [可笑譚]

 「お忙しい なか、本日もネット愛好会月例会に集まっていただき、ありがとうご

ざいます。私、世話人の山野昭如です。よろしくお願いします。さて、今日も初参加

の方がお見えです。藤森由季さんです。藤森さん、なにか一言いただけますか?」

市民会館の一角にある会議室に集まったのは、中年以上のおじさんばかり20人ほど。

想像していた以上に年齢層が高いのに少々戸惑いながらも、山野に促されて藤森由季

はおずおずと立ち上がった。

「あ、みなさま、初めまして。藤森といいます。初心者なんですけど、最近になっ

て急にネットに目覚めまして、にわかにネットにはまってしまいました。まだまだネ

ットのことなど何も知らない私ですけど、よろしくお願いします。いろいろ教えてく

ださいね。」

「おおー!パチパチパチ!」

会員の8割が中年男性ばかりなので、みんなうれしそうである。その中でもまだ若い

部類に入る山野は、藤森の戸惑いを感じてフォローする。

「希少な女性会員ですから、みなさん、やさしくしてあげてくださいね!」

「当たり前だ!」

「もちろん!」

「あ、私、古株の広田ともうします。」

頭が好々爺のようにきれいにはげ上がった男が言った。

「藤森さんは、ふだん、ネットをどのように楽しまれているんですか?」

頭がそんなことなので、ずいぶん高齢かと思ったけど、よく見たら案外若いんだな、

と思いながら、質問されたことに気がついて慌てて何か言わなければと藤野は思った。

「あ、あ、あ、私…まだそんな、楽しむなんて…ええっとどんなことができるのかな

っていろいろ考えているところです。それで、今は調べたり、検索したり…」

「あはは、そうですよね。調べたり検索したりとは、なかなか熱心ですな。」

「それでは、私が藤野さんに代わって私の楽しみ方をお話しましょう。」

「おいおい、田村さん、君の話は何度も聞かされてるよ!」

「そうはいうけど村上さん、藤野さんは初めて聞くんだから、いいじゃないか。」

「ああ、そうだな、ごめんごめん。じゃ、田村さん、一節どうぞ。」

「おほん。では、僭越ながら…私の場合は、最初はどうしていいかさっぱりわからな

かったので、何かを入れるくらいしかしてなかったんだけど、この愛好会に入ってか

らみなさんの努力の一部始終を聞かされて、いろいろ考えました。そこの岡部くんな

んかも、私と同じで、最初はわけもわからず、おにぎりを入れたりして、たいへんな

ことになったんだよね、ね、岡部君。」

岡部と呼ばれた白髪まじりの男が恥ずかしそうに頭を書いた。藤野由季は、え?おに

ぎり?入れる?何それ?と頭の中で言いながら、それでも意味がわからないままぼぉ

ーっと聞いていた。

「私はね、ちょうどその頃神経痛になっちゃって思いつきましたよ。ああ、これ、湿

布が剥がれないように押さえるのに使えるなって。ほら、筒状になったのをね、両端

をハサミできると、ちょうど手足がはいるんですよ。そしたら、そんなのは病院いけ

ばもっとちゃんとしたのがあるって、みんなに笑われましたよ。」

「は?何?湿布が?ああ…医療関係の情報も充実してるって聞いています…」

由季は思わず声に出した。

「そうそう、湿布ですよ。それでね、私なんか思いも及ばないことを考えた男がいる

んですよ。ほら、そこのおしゃれな加山君。」

「へへ、加山剛蔵です。私は服飾デザインをやってるのでね、日夜いろいろなファッ

ションを考えているわけですよ。

「へー!ファッションデザインですか!すてき!」

おしゃれ好きな由季もこれには少し反応した。

「はい。素材をいっぱい集めましてね。 それを一枚に縫い合わせて服にするんですよ。」

「素材って…?」

「もちろん、ネットですよ。」

「ネットって…あんなもの縫い合わさるんですか?」

「でしょう?そこが加山君のすごいところですよ。あんなもの縫い合わせるなんて誰

も想像つかないでしょ? 」

「最初は一色だったんですが、そのうち、いろんな色のを集めて縫い合わせるとね、

これがなかなかおっしゃれでぇ〜おっほっほ。」

「ちょ、ちょっと待ってください。ネットってインターネットをどうやって?」

「インターネット?」

 みんなが口を揃えて繰り返した。

「藤野さん、何言ってるんですか?インターネットじゃないですよ、ネット!ただの

ネット!」

田村がおどけて続けた。

「いやいや、ネットもただじゃない。お金はいりますよ。ほら、みかんが入ってるネ

ットだってみかんの代金はかかりますからねぇ。」

「あの…ネットって、あの。」

「最近になって私はあの、みかんを食べてしまった後のネットに石けんを入れてこす

れば泡立ちがよくなるのではないかと思って試したら、これがすごいんです。泡がい

っぱいつくれる。これは女性に受けるなぁなんて…ところがね、それももうあるって

いうんだ。」

「あの、まってください。みなさんは、あの、みかんが入ってる、時にはゆで卵が入

ってる、あの赤いネットの…」

「そうだよ、クルミが入ってるときもあるね。」

「細かいやつにはビー玉やおはじきなんかも。」

「スイカが入ってるのは…ちょっと違うか。」

「うんうん、赤とは限らないよ。緑とか青いのもある。」

「…というあの袋とかになってるネットの愛好会なんですかぁ?」

なんだか様子がおかしくなって来たので、世話役の山野が割って入った。

「藤野さん、そうですよ。我々ネット愛好会っていうのは、昔ながらのあのみかんや

ゆで卵が入っている網々のネットが大好きな人の集まりなんです。あれってなんか妙

にいいじゃありませんか。服にしちゃった加山さんはすごいけど、私はその前に、あ

の網の袋を2〜3枚つなげて靴下にしたことがありますよ。荒目の網ストッキングみ

たいに。もっとも男の私がはいたら少し気持ち悪かったですけど。」

「最初に田村さんが言ってたおにぎりを入れたのは私なんですけど、あれは駄目でし

たね。お米がバラバラになって、編み目からこぼれ落ちてしまって…」

なんということだ。私はインターネットを教えてもらえるかと思ったからやってきた

のに…でも、こいつら、なんか変。面白い。私、やっぱりこのまましばらくお世話に

なろうかしら、ネット愛好会。

                    了


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感想 2

(。・_・。)2k

面白そうな集まりですね(^^)
by (。・_・。)2k (2011-05-06 15:19) 

Coo

(。・_・。)2kさんいつもコメントありがとうございます。
ネットとネットってイージーでしたかねぇ?(笑)
by Coo (2011-05-06 19:26) 

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